あのIMFがアベノミクスをリスクと指摘
国際通貨基金(IMF)は9日、最新の世界経済見通しを発表した。2013年の世界経済の成長率は2012年から据え置きの3%強と予測したが、日本については「最近の緩和的な政策による信認と民需の拡大を反映し」、2013年の実質成長率予想を前年比2.0%のプラスに上方修正した。
IMFのチーフ・エコノミストであるオリビエ・ブランシャール氏(フランス生まれの米国の経済学者)は同日の会見で、世界経済の新たな懸念材料として「中国の金融システム不安や成長の鈍化」、「アベノミクス」、「米国の量的緩和の縮小による世界金融の不安定化」の順で言及した(朝日新聞)。
日銀の異次元緩和を受けて、IMFのラガルド専務理事は4月18日に「日本でこのほど発表された野心的な金融緩和の枠組みは、われわれの視点から見て前向きな一歩だった」と述べていた。その前の4月16日にブランシャール氏も、日本は良い意味でのインフレを生み出すため金融政策に「劇的な変化」が必要だったと指摘しており、日銀の異次元緩和は適切だとの認識を示していた。
IMFはこれまでも日本に対してリフレ的な政策を薦めていたが、日銀のリフレ政策に対してはこのように好意的に受け止めていた。ところが、そのリフレ政策を主軸にしているアベノミクスをリスク要因として、しかも中国のリスクの次に取り上げていたのは、ある意味驚きである。
ただし、このブランシャール氏は4月に日本に関して「公的債務が極めて高水準なことを踏まえると、中期的な財政再建計画がないのであれば財政による景気刺激策を実施するのはリスクが高いといえる」と指摘していた(ブルームバーグ)。アベノミクスの2本目の柱の否定的なコメントともいえる。
今回、ブランシャール氏が「アベノミクス」が世界経済の「新たなリスクだ」と指摘した理由も、やはり財政への懸念であった。アベノミクスが信頼できる中期的な財政健全化策を伴わなければ、「投資家が日本の財政の持続性を不安視し、日本国債に高い金利を求めることが心配だ」と指摘し、「そうなると財政運営は困難になり、アベノミクスは難しい状況に追い込まれる」と述べ、財政再建の取り組みを強く求めた(朝日新聞)。
ここでの言及はなかったが、これには消費増税の行方などにも注目しているものと思われる。アベノミクスによるリフレ政策は、財政への懸念を麻痺させる効果がある。昭和初期の高橋財政においても、日銀の国債引受により大増税は免れたことで国民の痛みが伴わず、財政悪化のチェック機能が働かなかった面も指摘されている。国債需給を日銀が管理しているような状況では、市場からのチェックも難しい。
黒田日銀の異次元緩和も年間国債発行額の7割も日銀が買い込むことで、国債の需給面からはかなり楽になることは確かである。ただし、高橋財政時と異なり、海外市場と国内市場を切り離しての鎖国状態にあるわけでなく、市場のチェック機能は働く。
今後の政府の財政運営次第では、日銀が行っているのは財政ファイナンスではないかとの懸念が出てくる恐れもある。それが日本国債の利回りに財政プレミアムをオンさせて金利急騰を招く懸念は存在する。そんなものは日本の債務が拡大して以降、ほとんどなかったことで、今後もありえないと結論づけるのは勝手だが、テールリスクであれ、日本の財政リスクが存在していることは忘れるべきではない。そのあたりを含めての今回のIMFによるアベノミクスへの警戒表明であると思われる。