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首相は消費税をどうしたいのか

久保田博幸金融アナリスト

政府は消費税率を来年4月に引き上げるかどうか、安倍首相の判断の参考にするため有識者60人から意見を聴く「集中点検会合」を26日にスタートさせた。いまさら60人の話を聞いても、ある程度結論は出ているはずである。まさか多数決で決めるわけではないと思うが、増税反対派、増税賛成派それぞれの意見もすでに集約されているものであり、いまさら話を聞いてどうするのか。

内閣府「今後の経済財政動向等についての集中点検会合」、http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/tenken/index.html

この有識者会号は政府向けではなく、マスコミや国民向けのものと理解すべきかと思う。すでに法律を通してしまったものであり、国際公約となってしまっているものを覆すには、増税反対派もかなりおり、その意見に耳を傾け国民の間でも賛否両論ある以上は、いったん見送りにして1年後に再び考えても良いのではないかとするつもりなのであろうか。

そもそもアベノミクスのブレーンであり、生みの親ともいえる浜田宏一、本田悦朗両内閣官房参与が消費税の引き上げに反対しており、首相も本音では増税の見送りを意識していると考えざるを得ない。そうでなければ、今頃になって費用もかけての有識者会合など開く必要性がないはずである。

リフレ派といってもいろいろいるが、その壮大な実験を始めたばかりであり、円安・株高とそれによる影響以外には、異次元緩和により目立った効果は見当たらない。コアCPIのプラス転換も規定路線である。景気の回復についても、アベノミクスによるものというよりも、世界的なリスク後退とそれによる欧米の景気回復に負うところも大きく、そこに円安の影響が加わっている。

浜田宏一内閣官房参与は集中点検会合の2回目会合で、 消費税率引き上げの1年先送り、または毎年1%ずつの引き上げを提言したが、1年先送りについては、壮大な実験を行ってしまった以上はその効果を確認する必要があり、消費増税がその結果そのものを不透明にさせかねないとの意識があるのかもしれない。興味深いことに浜田氏は1年後は景気の善し悪しに関わらず、消費増税を行うとしている点である。つまりは増税そのものを引っ込めるべきとの主張ではないが、1年先送りする理由を明らかにしてもらわないと、意味がわからない。

この2人のブレーンだけでなく、ある人物が安倍首相の消費増税に対する揺らぎに影響していた可能性が出てきた。8月31日の読売新聞の社説のタイトルが「消費税率 「来春の8%」は見送るべきだ」となっていた。内容については下記を読んでいただきたいが、無利子非課税国債にも触れている。つまりこの社説は、自民党にも大きな影響力を持っており、無利子国債について以前から主張していた人物の意向が反映されている可能性があり、安倍首相にもその影響が及んでいる可能性がある。

消費税率 「来春の8%」は見送るべきだ(8月31日付・読売社説)、http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20130830-OYT1T01397.htm  

この社説では景気の本格回復を実現したうえで、2015年10月に5%から10%へ引き上げることが現実的な選択としている。ただし、浜田氏のように1年後は景気の善し悪しに関わらず、消費増税を行うとは指摘していないが、似たように主張とも言える。

個人的には消費増税は予定通りに実行すべきと思ってはいるが、この際、リフレ的な政策をどんどん推し進めて何が起きるのかを試してもらうのもひとつの手なのかもしれない。消費増税は先送りし、東京オリンピックの招致も決まれば、公共投資も積極化できる。日銀が大量の国債を買い入れている状況化、国債発行には支障はなく、過去最大規模の予算も組める。物価が思うように上がらなければ、日銀にはさらなる国債買入を行わせ、財政ファイナンスとの懸念も出ようが、それで円安・株高が進行すれば目先は問題はない?。日本国債は簡単には暴落はしないし、需給は日銀がコントロールできる。そんな状況はあと1年ぐらいは継続できるのかもしれない。しかし、そのあとに何が待ち構えているのか。リフレ的な政策の行き着く先に何があるのか、それはぜひ拙著『聞け! 是清の警告 アベノミクスが学ぶべき「出口」の教訓』を首相にも読んでいただきたいと思う。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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