首相が市場を動かせるのか
4月15日に安倍首相と日銀の黒田総裁は、官邸内の会議室において2人で幕の内弁当を食べながら50分程度の会談をしたそうである。首相と日銀総裁が定期的に意見交換をすることは良いことではあると思う。しかし、これを市場の期待に働きかけるという理由で、市場を動かそうとしていたのであれば問題がある。
2012年11月の安倍自民党総裁からのリフレ政策を思わせる発言が、いわゆるアベノミクスと呼ばれた現象を引き起こした。その背景については何度も説明を重ねてきたが、タイミングが非常に良かった。ヘッジファンドも円売りを仕掛けやすい地合にあり、現実に急激な円高調整が起き、株高を演出した。
4月16日の日経新聞の記事「黒田効果 首相が演出」によると、今回の会談に際しては首相周辺から「このタイミングで2人が会談することが投資家に伝わることが大事だった」との解説があり、会談後には首相が株価ボードを見て「もうちょっとだったなあ」と漏らしたそうである(4月16日日経新聞朝刊)
何がもうちょっとだったのであろうか。首相はこの会談を前に、今月2日に積極的な金融緩和を唱えるリフレ派の論客と会談をしていたそうである。ここにきての円高株安の流れを少しでも食い止めて、アベノミクスは健在なりを示そうとしたのであろうか。
市場に自分の思い描く影響を与えようとすることは、かなり無理がある。2012年のアベノミクスは、あとは火をつけるだけの場所で、政権交代とリフレ政策を掲げたことで、一気に火が燃え広がった。黒田総裁らが主導した異次元緩和は、そのリフレ政策を忠実に実行したに過ぎない。その後の物価上昇は、何もしなくてもコアCPIはプラス浮上が予想されていたところに、円安による影響が重なり予想以上の上昇となった。
株価の上昇は円安による影響というよりも、円高株安の調整が一気に入り、そこに世界的なリスク後退を背景とした欧米の景気回復や、株式市場の上昇がフォローになっている。S&P500が過去最高値を記録し、イタリアの長期金利が過去最低を記録したのは、アベノミクスのおかげではない。
もし首相が2012年の政権交代前の自らの発言で自在に市場を動かせたと思っているとしたら、それはそれで問題である。市場の流れ、マインドを読むことも必要だが、市場はよほどのサプライズがなければ大きくは動かない。また、一度出た材料に対するサプライズを再度演出することも難しい。少なくとも2012年のアベノミクス相場の再現は現在の需給バランス等みてもまず無理である。できることは、なんとか期待を繋ぎ止めることである。それは日銀に頼るべき物ではなくなっている。これから日銀の金融緩和に過度に依存すれば、市場はそれをむしろリスクと感じる可能性がある。