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ベルギー保有の米国債が急増した理由

久保田博幸金融アナリスト

ここにきて米国債の海外での保有状況にやや変化が出ている。米財務省が発表している米国債国別保有残高(MAJOR FOREIGN HOLDERS OF TREASURY SECURITIES)によると、トップの中国、2位の日本のツートップには大きな変化はなかったが、昨年9月あたりからベルギーの米国債保有残高が増加し、昨年は6位から9位グループにいたのが、今年に入り3位に浮上している。

今年3月の上位10か国は次の通り(単位、10億ドル)。中国1272.1 、日本1200.2、ベルギー381.4、カリブ海の金融センター312.5、石油輸出国247.4、ブラジル245.3、台湾176.4、英国176.4、スイス175.7、香港155.7、ルクセンブルグ145.1

比較するために昨年3月の数字をチェックしてみると、中国1270.3 、日本1114.3、カリブ海の金融センター286.9、石油輸出国265.1、ブラジル257.9、台湾188.9、ベルギー188.4、スイス183.6、英国159.1、ルクセンブルグ154.5、ロシア153.0

昨年3月と今年3月を比べて、ベルギーによる米国債の保有残高が約倍(188.4→381.4)に増加しており、それに対して減少幅が目立ったのがロシア(153.0→100.4)となっていた。

ロシアは特に今年2月から3月にかけて削減幅が大きいが、これはウクライナ問題が絡んでいたと推測される。3月にFRBが保管している外国中銀の米国債保有高が過去最大の減少を記録していた。これはロシア中銀が引き出したとの観測が出ていた。ロシアがウクライナ危機関連の制裁発動を見越して、米国外に同国債を移したとの見方があったのである(ロイター)。この見方が米国債国別保有残高で裏付けられた格好となった。

もしロシアがFRBから引き出した米国債を市場で売却していたとすれば、米国債は大きく下落していたはずである。しかし、大口売りが入ったような気配はなかった。このためロシアは別のところに米国債を移した可能性が高かったのである。

ベルギーは昨年8月あたりから米国債の保有額を伸ばし始めており、今年2月から3月にかけてもロシアの引き出し額以上にベルギーの米国債保有額を増加させている。これについてベルギーに本社を置く清算機関ユーロクリアは16日、同社の取引が関係している可能性があるとの見方を示した(ロイター)。

ユーロクリアとは1968年にモルガン・ギャランティ・トラストが設立したユーロ市場における集中決済機構で、ベルギーのブリュッセルにある。各国の国債などの証券を決済する機関であり、証券会社・銀行などが利用している。現在はマーケットを構成する参加者が出資する会社が運営している。

つまりロシアがFRBから引き出した米国債は、このユーロクリアに預けられた可能性が高い。ところがベルギーの米国債保有額はウクライナ問題が発生する以前から増加している。これについては現在も米国債のトップの保有額となっている中国の残高が昨年11月からは減少気味となっており、中国もユーロクリアでの保有を増加させている可能性がある。

果たしてベルギーというかユーロクリアにおける米国債の残高の増加は、今後の米国債市場に何かしらの影響を与えるのか。単純に政治的な配慮ということで、市場へのインパクトは今後もないのか。金額も大きく不透明感も強いだけに、このあたりの動向も注意すべきものとなる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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