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日銀の物価目標はすでに達成しているのか

久保田博幸金融アナリスト

31日の日経電子版に「家計の実感では物価2%達成?」との記事が掲載された。市場ではあまり材料視されていなかった29日の石田日銀審議委員の講演であったが、このなかに興味深いポイントがあった。

物価をみるにはいろいろな指標がある。消費者物価指数、企業物価指数、GDPデフレーターなどが代表的な指標となる。このなかで日銀が目標としているのは消費者物価指数であり、そのなかでも生鮮食料品を除く、コア指数と呼ばれるものである。物価目標の設定の前からコアCPIが展望レポートなどでも使われてきたように、長らく日本の物価の代表的なものとなっている。

消費者物価指数の算出にあたってはかなり複雑な構造となっている。これについては総務省統計局のサイトにも説明があるものの、具体的な新型テレビの評価等については明らかにされていないなど一部ブラックボックスとなっているところもある。それはさておき、以前からコアCPIを引き下げているのでは、と指摘されているものが存在していた。「持家の帰属家賃」である。

石田委員は今回の講演で「持家の帰属家賃を除く総合指数」について指摘していた。この持家の帰属家賃とは、「実際には家賃の受払いを伴わない自己所有住宅(持ち家住宅)についても、通常の借家や借間と同様のサービスが生産され、消費されるものと仮定して、それを一般市場価格で評価した概念的なもの」との注釈があったが、つまり消費者物価指数には賃貸住宅の家賃は含まれるが、持ち家についてはローンの頭金や支払いは含まれないため、その部分をいま持ち家を貸し出したものとしての家賃水準として算出している。つまり実際には消費されていないものである。そして、「帰属家賃はほぼ一貫して前年同月比0.3~0.4%程度の下落率となっており、CPI全体の伸びを押し下げる要因になっていた」(日経電子版)。

30日の日経新聞の記事にもあったように、国内の住宅総数に占める空き家の割合が過去最高水準となっていた。景気動向等に関わらず帰属家賃が上がるような状況にはない。これがCPIそのものの足を引っ張る格好となっていた。

石田委員は「持家の帰属家賃を除く総合」指数の動きをみると、「足もと6月の伸び率は+4.4%とコア指数よりも1%以上高い水準にあり、それが最近の実質賃金の大幅減につながっています。また、このところの推移をみると、昨年11月の時点で 1.9%に達したあと、直近6月までの間、消費税率引き上げの直接的な影響を除くベースでみて、2%近傍の水準で推移しています」と指摘している。そのグラフも講演要旨で確認できる。実際に払っているわけでもない持家の帰属家賃を除く指数では、すでに安定的に2%水準を達成しているとの見方も可能となる。

持家の帰属家賃を除く総合指数が2%に達したから、目標達成というわけにはいかないであろうが、家計の実感として2%程度の物価上昇は感覚として達成しているとの見方もできなくはない。もちろん日銀は今後の政策運営にあたっては慎重に行ってくることが予想され、石田委員も「個人消費が底堅く推移していくためには、先行きの所得に対する改善期待が高まることが何よりも重要と考えられる」と指摘している。単純に物価だけで目標に達すれば良いというわけではなく、賃金の上昇等を受けての2%あたりの物価水準への移行が重要である。

「消費者物価全体の基調的な変化を、総合指数やコア指数をはじめとする様々な物価関連指標で捉え、総合的に判断されるべきものである」との石田委員は指摘している。持家の帰属家賃を除く総合指数だけをみて、目標達成とはいかないであろうが、様々な物価指標の一部が目標達成を意識させていることは認識しておく必要があるかと思う。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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