日米欧の長期金利低下の背景
日米欧の長期金利が低下してきている。特に欧州での長期金利の低下が目立ち、ドイツの長期金利は1%を割り込み、一時0.96%まで低下した。イタリアの長期金利は2.579%、スペインの長期金利は2.272%と、ともに過去最低水準を更新した。
イタリアやスペインの国債が買われていることからみても、この動きは欧州の信用不安を背景としたリスクオフではない。むしろ、イタリアやスペインの国債も安全資産との認識が戻ってきており、欧州経済の低迷によるECBの追加緩和への期待などから、ドイツの国債に比べて割安と見えるこれらの国債にも買いが入っている。ウクライナ情勢や中東情勢など地政学的リスクも意識されて、安全資産としての買いも入っているとの見方も可能か。
安全資産といえば米国債であるが、こちらも10年債利回りは2.30%近辺まで低下した。この水準は2013年6月19日以来となる。昨年6月19日にFRBのバーナンキ議長はFOMC後の記者会見において、失業率が低下基調を維持するなどの経済情勢が見通しどおりに改善すれば、今年後半に資産購入プログラム(LSAP)の規模縮小をスタートさせるのが適当と見ていると述べ、一定のペースで規模を縮小し、失業率が7.00%程度に下がっていくことを目安に、来年半ばにかけて緩和策を終了するという意向を示した。
このときには米長期金利は上昇基調となっていたが、さらに弾みをつけて9月には3%近辺まで上昇した。その後いったん2.5%あたりまで低下後、12月のテーパリング開始もあり、3%台に乗せてきた。しかし、そこから再び米長期金利は低下基調を辿ることになる。
英国の10年債利回りも18日に2.32%と大きく低下していた。英国の年初からの長期金利の低下はドイツなどに比べると緩やかであったが、イングランド銀行の利上げ観測があっても、ドイツの長期金利に引っ張られる格好で、英国の長期金利は年初の3%台から、2.3%台と昨年、7月あたりの水準に低下した。
日本の長期金利も年初の0.7%台からやはり低下基調となり、8月15日には0.5%を割り込んできている。
この日米欧の長期金利の低下の背景には何があるのか。2013年あたりまでの日米欧の長期金利の低下の背景には、欧州の信用不安という明らかな要因が存在した。しかし、その信用不安そのもののリスクは後退したのは、イタリアやスペインの長期金利が過去最低水準を更新したことからも明らかである。
それでは年初のトルコなどの新興国の不安、ウクライナ問題、中東の地政学的リスクなどは起きたものの、それはかつてのリーマン・ショックやギリシャ・ショックなどのように世界経済を揺るがし、金融不安を起こすほどのものではない。FRBは淡々とテーパリングを行っており、イングランド銀行も利上げの準備に取り掛かった。日本も日銀の意図したような動きとなり、物価は1.5%あたりまでの上昇を見せており、デフレ脱却も視野に入ったような状況にある。
しかし、日米欧のなかで、ECBだけは対応に変化があった。昨年11月に利下げを行い、さらに今年の6月には包括的でパッケージされた追加緩和策を決定していた。日銀にも追加緩和観測は出ていたが、こちらは物価目標との兼ね合いでの市場からの過剰な期待が背景にあった。しかし、ECBの追加緩和は物価や景気の低迷から動かざるを得ない状況にあったためといえる。特に物価の低迷が顕著であり、日本型のデフレも危惧されつつある。年初からの日米欧の長期金利の低下という現象の背景には、欧州の景気物価動向とそれよるドイツを中心とした長期金利の低下が存在した。
欧州の危機は去ったが、大きな危機後はその後始末が必要となる。その最中に発生したウクライナ問題は、さらに欧州の景気回復に水を差しかねない。ユーロが火薬庫となり、日米英の長期金利もそれに引っ張られた格好で低下している。これには相場の読みを間違えたヘッジファンドなどによる影響もあったとされる。
しかし、伸び切ったところでゴムが切れることもありうる。ここからの日米欧の長期金利低下は、何かしら大きなリスクが発生してのものではない以上、次第に説明も難しくなる。国債バブルという現象と捉えることも可能と思われ、弾けるリスクは常に意識しておく必要もあるのかもしれない。