不可解な決定会合の中断時間
日銀は25日の朝、10月31日に開かれた日銀の金融政策決定会合議事要旨が公表された。10月31日に日銀は「量的・質的緩和の拡大」、つまり異次元緩和の第二弾を決定した。事前に追加緩和観測はほとんど市場では流れておらず、サプライズな緩和となっていた。追加緩和決定は5対4というぎりぎりの多数決で決定していたこともあり、その決定に至る政策委員の議論も当然注目されたが、今回はその部分ではなく違う部分から興味深い事実がわかったのでそちらに注目してみたい。
10月31日の決定会合では、妙なことが起きていたことが議事要旨からわかったのである。それは以下の部分である。
「金融市場調節方針の変更等に関する議論を踏まえ、政府からの出席者から、財務大臣および経済財政政策担当大臣と連絡を取るため、会議の一時中断の申し出があった。議長はこれを承諾した(12時31分中断、12時42分再開)」
金融政策の変更を決定しようとしているので、担当大臣に確認を取るのはあたりまえではないかと思われるかもしれないが、これは極めて異例の出来事なのである。過去の事例を見ても金融引き締めの際には、このような中断があったが、その後の金融緩和の際には、異次元緩和第一弾を決定した2013年4月の決定会合を含めて、中断の事例はなかった。政府にとっても10月31日の日銀による量的・質的緩和第二弾がサプライズであったことは確かである。
参考までに2000年8月のゼロ金利解除の際の議決延期請求権を行使した際だけでなく、2006年3月の量的緩和解除の際や(午後1時17分中断、午後1時46分再開)。同年7月のゼロ金利解除時(午後0時39分中断、午後1時00分再開)、2007年2月の利上げの際にもあった(午後1時01分中断、午後1時26分再開)。これらはすべて議長から議案が提示されたあとに中断が要請されていた。
ところが今回は金融引き締め方向ではなく、政府には都合の良い金融緩和であり、議決延期請求権など行使することは考えづらい。それではなぜ、担当大臣に確認を取る必要があったのか。
10月31日の政府からの出席者は、財務省からは宮下一郎財務副大臣、内閣府からは前川守政策統括官であった。財務副大臣は麻生大臣から日銀が動く可能性がありそうだとは、聞いていなかったのであろうか。それともそれまでの日銀の政策委員の議論から、かなりきわどい票決になりそうだとの連絡をしたのであろうか。もちろん全くのサプライズであり、自分のコメントを含めて大臣に確認を取った可能性もある。
このあたり憶測となってしまうが、麻生大臣も今回の日銀の追加緩和は知らされていなかった可能性もある。事前に政府が日銀の金融政策の変更を知ること自体、おかしいとのご指摘もあろうが、繰り返すが2013年4月の異次元緩和第一弾では、今回のような中断はなかったのである。
日銀が緩和のタイミングを計るために政府側との阿吽の呼吸を信じて異次元緩和第二弾を独自に決定したとなれば、その後の解散総選挙と消費増税の延期に至ることを考えると勝手に突っ走ってしまった可能性もありうる。公定歩合と解散は嘘をついても良いとされていたが、まさか日銀と政府もお互いに嘘というか本音を隠していたというのであろうか。
不可解な決定会合の中断時間は、真実が明るみに出ると何だそんなことかというものかもしれないが、もしかするとかなり奥の深いものであった可能性もある。ただし、中断時間はわずか10分程度であったことを考えると、担当大臣はある程度の動きを察していたのかもしれない。