Yahoo!ニュース

物価目標達成時期は最長で2016年6月なのか

久保田博幸金融アナリスト

4月19日に日銀の黒田総裁は、米国のミネソタ州ウェイサタで「インフレ予想に対する我々の理解はどこまで進んだか?」と題する講演を行った。その講演の邦訳が日銀のサイトにアップされている。講演後には質疑応答もあったようで、ロイターは以下のように伝えている。

「(黒田総裁は)金融市場における疑念と日銀における自信との間にはギャップがあると指摘。「向こう数年における金利の市場見通しは非常に低い。一方で、さきほど述べたように、われわれは2%の物価目標を2015年度、もしくは16年度序盤に(in fiscal 2015 or early fiscal 2016)達成できると見込んでいる」としたうえで、「これは金利が徐々に上昇することを意味し、そうなれば日本の市場は驚くだろう」と述べた」(4月20日のロイターの記事より引用)

黒田総裁は、4月15日の信託大会での挨拶において、「消費者物価の前年比は、原油価格下落の影響が剥落するに伴って伸び率を高め、2015年度を中心とする期間に2%に達する可能性が高いとみています」と述べていた。その2015年度を中心とする期間とは、「2015年度、もしくは16年度序盤(in fiscal 2015 or early fiscal 2016)」ということであれば、つまり2016年の第一四半期あたりを示すとみられ、目標達成時期は最長で2016年6月あたりということになろうか。

その時期までに2%の物価目標が達成できるとの根拠は何であろう。黒田総裁は講演において、最近の労働市場での動きをひとつの指標として示している。

「1990年代から、すなわち、約20年間にわたって、交渉の結果としての基本給の引き上げ(ベースアップ)はゼロが続いていました。しかし、2014年の春闘では、多くの企業で約20年振りにベースアップが実現し、今年はさらに多くの企業でベースアップの実現が見込まれています」(ミネソタでの講演の邦訳より引用)

ベースアップが可能となった環境と異次元緩和との関係についてはさておき、果たしてベースアップで物価は上がるものなのか。昨年の春闘でのベースアップ効果は、消費増税や円安の影響で名目上の物価上昇率は前年度を大きく上回り、実質所得が低下、個人消費の足を引っ張ったとの指摘もある。ただし、この4月からは消費増税の影響分はなくなる。さらには原油安の影響もあり、実際の物価は前年比ゼロ%近辺と日銀の物価目標を大きく下回っている。

日銀総裁は今回の講演で、「先行き4四半期のインフレ予想の変化のうち、およそ40%は、過去の実際のインフレ率の動きで説明できる」とのボストン連銀のジェフリー・ファーラーによる最近の研究結果を紹介している。もしそれが仮に正しいとして、現在の足元物価がゼロ近辺となれば、日銀が異次元緩和で上げるはずの物価予想もかなり低い位置にあるということにはならないだろうか。それを押し上げるには、原油価格が日銀の思惑通りに上昇基調となり、ベースアップ分が即座に物価に反映されるということが前提となるのか。

原油価格の先行きについては予想しづらいが、すでにボトムをつけて、ある程度の上昇もありうると思うが、それでも居所としては、WTIで50ドル近辺が居心地が良いのではなかろうか。

ベースアップにより実質賃金もプラスとなり消費拡大により、短期的に物価上昇に繋がるのかについては懐疑的な見方もある。そもそもの巨額の政府債務が懸念材料となり、家計も攻めの構図というより守りの構図となっているように思われる。このため、ベースアップで消費が大きく拡大し、現在前年比ゼロ%の物価を2%に上昇することは、かなり難しいことのように思われる。だからこそ、現実に2016年6月あたりまでに日銀の物価目標が達成され、それにより金利が徐々に上昇すれば、たしかに日本の市場は驚くことは間違いない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

牛さん熊さんの本日の債券

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月20回程度(不定期)

「牛さん熊さんの本日の債券」では毎営業日の朝と引け後に、当日の債券市場を中心とした金融市場の動きを牛さんと熊さんの会話形式にてお伝えします。昼には金融に絡んだコラムも配信します。国債を中心とした債券のこと、日銀の動きなど、市場関係者のみならず、個人投資家の方、金融に関心ある一般の方からも、さらっと読めてしっかりわかるとの評判をいただいております。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

久保田博幸の最近の記事