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金融緩和への甘えの構造

久保田博幸金融アナリスト

ものごとには継続性が存在する。相場もしかり。ファンダメンタルズから機械的に株価や金利も為替水準を導き出せるものではない。その水準は絶対的なものではなく、相対的な見方によって決定される。だからこそ相場の居所を探るためには流れをみることが必要となり、そのためにチャートと呼ばれる相場の推移を確認できるグラフが重宝される。

ドイツの長期金利は4月17日に0.049%まで低下し、5月7日に0.78%まで上昇した。この間にファンダメンタルズには大きな動きはない。せいぜい欧州の物価や景気が底打ちしたような兆しが出ていただけである。果たしてどちらの水準が正しいといえるのか。極端な例では、2013年4月5日の日本の長期金利は0.315%から0.620%に上昇した。これもどちらが正しいと言うことはできない。絶対的な水準ではなく、相場の流れとその流れを変化させる材料のインパクトなどにより相場は動くことになる。

市場は力尽くで動かせるようで、実はそのようなことはない。為替介入をみてもイングランド銀行とジョージ・ソロスの攻防戦、さらに最近ではスイスの事例を見てもわかるように、介入することで相場変動を抑えようとしても無理がある。

ただし、相場が下落したような時には他力本願となりやすいのも相場である。一度甘い汁を吸うとその状況が未来永劫続くことを望むことになる。現在の世界の市場を取り巻く過去に例を見ない超金融緩和状態もしかりである。サブプライム・ショックによる世界的な金融不安とギリシャを発端とした欧州の信用危機が続いて起きたことで、金融政策の流れは過度の緩和状態を生み出した。日米欧の中央銀行は政策金利がゼロ近くまで引き下げたあと、大量の国債等の買入に踏み出した。これは二度にわたる世界的な金融危機への対処が目的のはずであった。

その大きな危機は去った。しかし、過去に例を見ない金融緩和の状態は続いている。せいぜい英国や米国が新規に国債を買うことを停止した程度である。世界経済はまだ万全な体制ではないものの、過度な金融緩和や、さらなる緩和が必要な状況には陥っていない。それにも関わらず予想よりも経済指標が悪化すると、それで追加緩和への期待が高まったりする。これはこれまでの流れを受け継いでしまっているため、市場そのものが金融緩和に対しての甘えを継続させているためと思われる。だからFRBの利上げを示唆されても、市場ではそのようなことができるわけはないとの思いも強い。

この過度な金融緩和への甘えの構造がFRBの正常化によって変化する可能性がある。過度な金融緩和の副作用はいまのところ見えていない。しかし、超金融緩和を続けざるを得ない状況下で、米国株式市場の指数が過去最高値を更新しているのはなぜなのか。むろん過度な金融緩和がその要因でもあるが、この矛盾に対しておかしいとの指摘がないことが危険な徴候とも言えるのではなかろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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