ギリシャ国民の選択の行方、日本との違いは何か
ギリシャの国民投票は本日、5日に実施される。この短期間でよく国民投票の実施が準備できたと思うが、古代ギリシャのアテネでは重要決定は市民全員参加での多数決によって決定されたとされる。このあたりの伝統も受け継がれているのであろうか。
今回のギリシャの国民投票は、EUが提案した財政緊縮策の賛否を問うかたちとなる。つまり6月30日にいったん停止されたギリシャへの金融支援プログラムを延長するためには、ギリシャが財政改革案をのむことが大前提となる。国民投票では年金カットなど厳しい緊縮改革案を受け入れる場合にはイエスとし、受け入れたくない場合にはノーとする二択の投票となる。
イエスが過半数を占めることになれば、緊縮改革案を受け入れることになり、金融支援プログラムが延長される可能性がある。ただ、イエスとなればギリシャのチプラス首相、バルファキス財務相は辞任すると表明している。そうなれば総選挙の実施も予想され、ギリシャの新政権次第ということにもなる。
ノーが過半数を占めると、やや訳がわからない事態が生じる。チプラス首相はこの結果をもってEUとの交渉を有利にさせたいとの腹づもりなのかもしれないが、EU側はこれによって妥協するとは思えない。EUからの支援がなければ7月20日のECBに対する約35億ユーロの返済も不可能となる。ECBからの資金供給でかろうじて生きながらえているギリシャの銀行がこれで完全に資金繰りに窮することも予想される。政府による年金等の支払いも不可能となってこよう。そうなるとユーロ離脱の選択肢が浮かび上がる。
ギリシャのバルファキス財務相は2日、国内にはユーロに代わる紙幣を印刷する輪転機がなく、通貨を発券する能力はないと説明した。ゲーム理論の専門家でもあるバルファキス財務相が仕掛けたゲームはあまりに稚拙すぎる。輪転機があろうがなかろうが、EUから見放された場合には、そこに止まることはできなくなる。
ユーロ離脱となれば、統一通貨のユーロは使うことが出来ず、あらたな通貨を発行せざるを得ない。その通貨の価値は下落すると予想され、ギリシャ国民の生活に非常に大きな影響を与えよう。国民投票の賛成派は「緊縮策の受け入れ反対は、ギリシャのユーロ圏からの離脱と経済の破綻を意味する」と主張しているそうだが、決してこれは誇張ではない。果たしてそのような選択肢をギリシャ国民は取れるのか。
一度は生活を苦しめる緊縮策に反対してチプラス政権を選択したギリシャ国民だが、フリーランチはないことをここであらためて気がついたはずである。その結果、どちらを選択するのか。
このあたり日本も大きな教訓とすべきところであろう。日本とギリシャの違いとしてはユーロというシステムの存在もある。しかし、大きな債務を抱えてその返済の有無が国家的な危機を生むという状況は日本でも当然起こりうる。それが日本で起きない理由のひとつが、日本の経済規模があまりに大きすぎて影響力がありすぎるところにある。つまりは「Too big to fail」である。もちろん国債への信認が維持されているからこそ、その債務残高を維持し続けることができている。
ギリシャと日本との国民性と違いなどの指摘もあるが、日本は巨額の借金ができるという環境にいればこそ、現在の生活というか経済が維持されている。日本でも新たな借金ができなくなれば、国民性とかの問題ではなくなり、ギリシャと同様の事態が発生する。日銀が国債を大量に買うから問題はないとの指摘もあるかもしれないが、中央銀行が大量の国債を買い入れている状況は、日本の債務リスクをむしろ増加させている懸念もある。決してギリシャの問題は他人事ではない。