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20年以上かかる異次元緩和の後始末

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

10月2日の日経新聞の経済教室はかなり興味深い内容であった。タイトルは「日米欧中銀の金融正常化 保有国債等縮小、20年超も」。書き手は元日銀信用機構局長で前IMFビジティング・スカラーの田幡直樹氏である。田幡氏はIMFにて、FRBや日銀、ECBの量的緩和、量的・質的緩和および金融正常化プロセスの比較研究を行ったそうである。フィッシャーFRB副議長や、コーン元副議長との議論も行ったとか。

FRBは2008年11月から2014年10月までQE、QE2、QE3の3回に渡る量的緩和を実施してきた。これによりFRBのBS拡大額は3.98兆ドルとGDP比22%に達している。イエレン議長はこのバランスシートの正常化を2020年までに行うとしているが、田幡氏は途中で景気循環の下降局面に遭遇する懸念もあり、結果として正常化には10年超を要すると見込んでいるそうである。

FRBに対して日銀は二度の異次元緩和を実施し、いまのところその出口すら見えてこない。田幡氏は正常化の開始は早くとも消費増税債引き上げの影響を見定めるため、2018年からと予想している。現在の異次元緩和が2017年末まで続けられるとすれば、日銀のバランスシートは380兆円とGDP比では約75%に達する(参考までにGDPが600兆円でも約63%)。

日銀が2018年以降、QQEによるバランスシートの年間拡大額の半分程度の35兆円から40兆円を毎年削減していくとしても、10年以上を要することになる。しかし、やはり途中で景気の悪化等でバランスシートが再拡大する可能性もあり、20年超を要する可能性を指摘している。

これらの試算は、むしろ楽観的ではないかと私はみている。FRBと日銀はたしかに国債の売りオペという手段を持ってはいるが、果たして市場へのインパクトを抑えた上での売りオペが可能なのか。現にFRBもテーパリングを行ったあと、バランスシートはそのままで次は利上げを選択肢にしている。償還分の乗り換えだけでもバランスシートは落とせるが、それにもまだ着手していない。

日銀にいたっては過去にテーパリングの経験すらない。国債の売りオペなどは、もってのほかといった状態にある。仮にテーパリングが市場の動揺なくできたとしても、日銀のバランスシート縮小には償還分の乗り換えをしないという手段が取られると予想される。すでに期間の長い国債も大量に保有しているため(デュレーションは7年~10年程度に延長するとしているが、買入には25年超の超長期債も含まれている)、かなりの期間を有することになる。

さらに国債発行額の9割も日銀が買い占めている状況から抜け出すには、民間金融機関が国債を再び大量に保有したいというインセンティブも必要になるが、それはつまりデフレ的な環境を意味する。日銀の正常化の条件の状態とは真逆である。もちろん、生保などはある程度の利回りがついた方が運用はしやすいが、これだけの規模の国債残高があるなかでの、高利回りという状況は誰も経験していない。

政府はすでに国債の大口保有先であったGPIFなどの国債保有比率を低下させ、ゆうちょ銀行なども今後同様な動きをしてくるとみられる。異次元緩和以降、大量に国債残高を落とした都銀には保有余地はあるかもしれないが、それにも限度はあろう。

日銀の異次元緩和はまさに「とおりゃんせ」状態であり、入るのは容易でも、出るのは困難である。20年超という期間もあくまで楽観的に見てということになるのではなかろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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