ドラギ総裁は追加緩和で押し切れるのか
ECBのドラギ総裁は20日のフランクフルトの講演で、「現在のECBの政策軌道がこの目的を達するのに不十分だと判断すれば、われわれはインフレを可能な限り速やかに押し上げるために必要な措置を取る」と表明した。「特に、資産購入プログラムが強力で柔軟な手段だと考えている。いっそうの拡張的な政策姿勢を成し遂げる上で、規模、構成、期間を調整することが可能だからだ」と語ったそうである(ブルームバーグ)。
ECBは今年1月の理事会で国債買い入れ型の量的緩和(QE)実施を決定した。ECBの指揮によりユーロ圏の各国中銀が2015年3月から国債を含めて毎月600億ユーロの資産を買い入れ、それを2016年の9月まで続け、買い入れ総額は1兆ユーロを超す見通しとなっている。ECBの買い入れの対象はユーロ圏の国債のほか、欧州連合関連の国際機関が発行するユーロ建て債券となる。これまでに実施した資産担保証券(ABS)などの買い取りも続けている。
元々、ドラギ総裁はFRBのような国債買入による量的緩和導入を熱望していた。しかし、ドイツなどの反対により実現がかなわず、そのため利下げという形式での追加緩和を実施せざるをえなかった。この際もドイツ、オランダ、オーストリア、エストニアなどの反対はあったが、多数決で押し切った格好となった。
12月3日のECB理事会での追加緩和を示唆する格好となったドラギ総裁であったが、これに対しドラギ総裁の20日の講演から数時間後にドイツ連銀総裁であるECBのバイトマン理事は、景気を過度に悲観すべきではないとし、現行の政策措置の効果が経済に浸透するまでもうしばらく待つよう呼び掛けた(WSJ)。
さらにECBのラウテンシュレーガー専務理事(ドイツ出身)も23日にミュンヘンでの講演で、「私の目から見て、資産買い入れ措置の拡大はもちろんのこと、現時点で追加の緩和策を行う理由は見当たらないことは明らかだ」と語った(WSJ)。
その前に、ECBのクーレ理事(フランス)も、ECBは12月に行動する必要はないと発言していた。ECBは社債の買入も模索しているようだが、12月では準備が不十分との認識のようである。
このように今回もドラギ総裁が追加緩和に前傾姿勢を示すが、ドイツの出身者からは明確な反対意見が出されており、中立とみられるフランス出身者からも慎重な意見が出されていた。ドラギ総裁とすれば今回も多数決で押し切ろうとしているかにみえるが、いまどうしても追加緩和が必要なのかと問われれば、急ぐ理由も見当たらない。
ただし、ドラギ総裁としては2014年10月の日銀の黒田総裁が先導した追加緩和のタイミングも意識されているとみられる。つまり、今回は12月のFOMCの利上げを前に、反対方向となるECBの追加緩和によってユーロ安を導きだそうとしているのではなかろうか。このような明らかな為替誘導策に見える策は、日銀の例を出すまでもなくさほど有効とは思えず、むしろ相手国との関係に影響を与える懸念がある。また、黒田総裁の言ではないが、ドラギ総裁もまだまだ国債は買えると言いたいのだろうが、国債を大量に買えばそれで何が変わるのか。すでにマイナス金利となっているところに、さらにマイナス幅を拡げても経済への影響は限られたものになると思われる。