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日銀に必要なのは発想の転換では

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

25日に日銀の金融政策決定会合議事要旨(10月30日開催分)が公表された。このなかで物価安定の目標に関しては、物価の基調的な動きが重要であるとの認識を共有したそうである。現実の物価ではなく物価の基調を見るべきとのスタンスに変化はない。物価の基調は着実に改善しているとの姿勢にも変化はない。

ある委員は、「多くの国民や企業経営者の間では、量的・質的金融緩和は所期の効果を発揮し、デフレ脱却は進んでいると評価されており」との発言があった。さらに「現在の政策を持続することにより、こうした信認を保つことが重要であるとの見方」も示した。これはマネタリーベースなどの調整目標をたとえば金利に戻すような政策に戻すようなことはしないとの表明のようにも思われる。

多くの委員は「リスクの顕在化によって物価の基調的な動きに変化が生じ、物価安定の目標の早期実現のために必要があれば、躊躇なく政策の調整を行うべきである」と述べたそうであるが、たとえば2014年10月の追加緩和を見る限り、原油価格の下落などの外部要因もこれに含まれるということであろうか。基調そのものの意味が曖昧のようにも思われる。

「このうち一人の委員は、追加緩和の手段は様々なものが考えられ、必要であれば追加緩和の手段に限りはないと付け加えた」

これは黒田総裁の発言かと思われるが、国債残高は1000兆円もあるし、国がもっと国債発行すれば、いくらでも買うことは確かに数字上は可能である。しかし、これは債券市場という存在が完全に蔑ろにされている発想のように思われる。2%の達成時期が後ずれすることに関しては、下記のような扱いとなっている。

「日本銀行が2%の物価安定の目標の早期実現にコミットすることで、人々のデフレマインドを転換し、予想物価上昇率を引き上げることは、デフレ脱却という目的そのものであると同時に、量的・質的金融緩和の政策効果の起点であり、そのもとで、企業や家計の物価観は大きく変化してきたとの認識を示した」

そもそも日銀が大胆な緩和をしてデフレマインドを転換させ、企業や家計の物価観が変われば「物価」は2年程度で上がるのではなかったのか。

「このうち一人の委員は、予想物価上昇率を引き上げて2%にアンカーし直さなければならないという課題に直面する日本銀行にとって、このコミットメントは必要な装置であるとの認識を示した」

装置そのものに問題はなかったのか。その検証の方を進めるべきものではないかと思うのだが。仮定に間違いがあれば当然、結果は伴ってこない。

「見通し期間中には物価上昇率は2%程度に達しないとの認識を示した複数の委員は、これとは異なる見解を唱えた」

これはややリフレ派とは距離を置く委員の発言かと思われる。

「このうち一人の委員は、このコミットメントは常に先行き2年程度を念頭に置く一種のローリングターゲットと考えていると述べた」

これは佐藤委員の発言か。佐藤委員はローリングターゲットについて下記のように6月の会見で説明した。

「2年程度の期間というものを固定的に考えるのではなく、先行き2年程度のタイムスパンを常に念頭に置きながら考えていく」

これは見方によっては逃げ水的なもののように思われ、そもそも国債買入の効果が物価に直結しないのであれば、いつになっても達成できないのではなかろうか。

この議事要旨を見る限り、日銀としては物価目標達成にはほど遠いものの、異次元緩和に対する考え方に変化はないようである。問題はローリングターゲットにしたとして、いつまでも巨額の国債を滞りなく購入することが難しい点にある。この議事要旨から見る限り、債券市場が存在するという前提での国債買入の限界に挑戦しているかのように思われる。いまの日銀に必要なのは発想の転換であると思うのだが、現体制ではそれに踏み出すことは困難なのであろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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