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国債の市中発行額は減らすべきか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

11月26日に財務省で開催された国債市場特別参加者会合の議事要旨が27日に公表された。国債市場特別参加者とは、米国で言うところのプライマリーディーラーであり、国債を入札で落とす主力メンバーである。国内外の大手証券や大手銀行で形成されている。

26日の会合のテーマは「平成28年度国債発行計画について」である。冒頭に財務省から来年度の国債発行に関して以下のような説明があった。

「平成28年度は今後の予算編成の動向次第となるが、内閣府中長期試算では、マイナス1.2兆円減少の35.7兆円と推計している。復興債については、今後の予算編成過程で決定される予定であり、財投債については、財投計画全体の規模を踏まえて今後決定することとなっている。借換債は、平成28年度概算要求ベース(112.8兆円)では、平成27年度計画額(116.3兆円)より約マイナス3.5兆円低い水準である」

新規国債は今年度計画から1.2兆円減となり、借換債は約3.5兆円減となる。復興債や財投債の規模次第ではあるものの、この時点で今年度から5兆円程度の国債発行額の減額が想定される。

財務省はこの会合を含め市場関係者の意見も踏まえつつ、予算編成過程と並行してカレンダーベース市中発行額の年限構成や規模を決定するとしている。

国債の年間発行総額は新規国債、復興債、財投債、借換債、個人向け国債の発行額、さらに日銀乗換などが決定すれば自動的に決まる。ところが1年間を入札等で発行する額、つまりカレンダーベースの市中発行額とは金額が異なるものとなる。これは国債発行には前倒し発行、出納整理期間発行が存在しているため、カレンダーベースの発行額についてはかなり調整が可能になっている。

すでに前年度に前倒しで発行する前倒し債の発行ベースは今年度で30兆円を超えており、新規国債の発行額規模となっている。つまり、来年度は新規国債分を発行しなくても、計算上は発行総額はカバーできる。

このように調整が可能な分、日本の国債市場を取り巻く環境等も配慮して、カレンダーベースの市中発行額を決める必要がある。現在の日本国債は特に信用リスク等が高まっているわけではない。むしろ超が付くほどの低金利の状況下、日銀による大量の国債買入が継続されており、需給がタイトとなっている反面、市場の流動性がかなり低下しつつあり、ここも配慮する必要がある。

本来であれば財政規律を守る姿勢を示すため、発行総額に応じたカレンダーベースの減額をすべきところではある。ただし、カレンダーベースで巨額の国債発行額が維持されようと、発行総額が減額されていることで財政規律を守る姿勢は示せる。

そして、国債需給が異次元の好環境になっていることを背景に将来のリスクに備えた政策も必要ではなかろうか。つまりバッファーとなる前倒し債の発行額をさらに増加させ、なるべくカレンダーベースの発行額を維持することが望ましいのではなかろうか。

それでなくても需給逼迫により流動性が低下していることで、多少なりとも流動性を維持させる必要があるとともに、2017年度は借換債の発行増も予想されていることでその備えともなる。そして何よりも異次元緩和からの出口という難解な作業が将来に控えている以上、それに向けて備える必要があるのではないかと個人的には考えている。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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