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困難となりつつある政府・日銀の株価対策

久保田博幸金融アナリスト
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

年初からの株安、円高さらに原油安により、政府や日銀に対応を求める声が出てきている。今回の日本の株安や円高は日本の内部要因によるものではない。中国など新興国経済のピークアウト感が強まり、原油価格も下落した。そこに米国の利上げも組み合わさり、新興国からの資金の逆流も生じた。これが年初からの相場変動の要因である。

ただし、原因は何であれ、結果として東京株式市場が年初から大きく下落し、日経平均は心理的な節目とみられる17000円を割り込んできた。さらにはドル円も節目とされる117円を割り込む事態となっている。原油先物もWTI先物が30ドルを割り込んでいる。

株価は日本経済の指標のひとつであり、円高は輸出企業にとってはマイナス要因となる。特に安倍政権はアベノミクスと呼ばれたリフレ政策により、急速な円安株高を招き、それが政権支持への大きな基盤となっていた。このため、今回の円高株安の動きは看過はできないはずである。

さらに原油価格の下落は日銀の物価目標達成のさらなる先送りを意味する。日銀の示す新コアコア指数にはエネルギー関連は除かれているが、原油価格の下落はエネルギー関連だけではなく物価全体に影響を与えることで、新コアコアも頭打ちとなる可能性がある。それ以前に、そもそも日銀の物価目標はあくまで消費者物価の「総合」であるため、原油価格の下落は直接的な影響を被る。

それでは政府や日銀は市場からの期待に応えて効果的な株価対策を打つことが可能となるのか。マーケットの動きをみると14日の日経平均17000円割れのタイミングでは、いわゆるPKOのような動きが入った可能性がある。公的年金などがアセットアロケーションの変更という名目で、株式市場で押し目買いを入れて、債券市場では超長期債を売却した可能性がある。

しかし、海外市場での株価や原油価格の下落が止まらない限り、このような施策にも限度はある。すでにGPIFのアセットアロケーションの調整もだいぶ進んでいたはずであり、また日銀によるETFへの買いにも限界がある。

今年度の補正予算案ものもなく可決されることで、ここからあらたな財政政策を講じることも難しい。そうなると日銀の追加緩和への期待が強まりそうだが、果たして日銀が追加緩和を講じるとしても、それが株高や円安を招くかどうかも疑問である。12月のECBの追加緩和に対する市場の反応をみれば、むしろ中途半端な追加緩和は逆効果になりかねない。

このように政府と日銀は現在のところ、外部要因による日本株の下落や円高、さらに原油安に対しては有効な手段はとりえないと思われる。むしろここは対策の可能性は示しても、外部環境が落ち着くのを待った方が得策ではなかろうか。あまり無理強いすると、ここは岩盤のように動かないはずの国債市場に動揺が走る懸念すらありうる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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