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日銀の追加緩和が相場を乱した可能性

久保田博幸金融アナリスト
(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

3月7日の原油先物市場では、WTIが先週末比1.98ドル高の1バレル37.90ドルで引けた。引け値として昨年末の水準を回復。ザラ場中に38.11ドルまで上げ、期近物として1月4日以来の高値を付ける場面があった。

また、同日の米国株式市場ではS&P500種株価指数が1.77ポイント高の2001.76と節目の2000ポイント台を回復し、1月5日以来の高値で引けた。ダウ平均も17000ドル台と1月初めの水準に戻している。

WTIとダウ平均の日足チャートを比べてみるとWTIは下落トレンドが継続するなか年初から下げピッチを早める格好となり、この原油安も影響しダウ平均は昨年末あたりから大きく下落した。ところが原油先物、ダウ平均ともに1月20日近辺と2月10日近辺でいわゆるダブルボトムを形成し、その後大きく切り返して両者ともに年初の水準まで回復した。

これに対して欧州の代表的な株価指数であるストックス600指数は、やはり昨年末から下落傾向が顕著となり、ダブルボトムという形とはならなかったが、2月10日近辺で底打ちし、1月10日あたりの水準まで回復している。

年初からの世界的なリスク回避の要因としては原油価格の下落が継続していたことに加え、中国経済への懸念が強まったことも挙げられる。その中国の株式市場の動向をみると、たとえば上海総合指数は年初から急速に下落ピッチを早め、1月27日と2月29日にダブルボトムを形成した格好ながら戻りきれておらず、3000割れの水準となっている。

年初からのリスク回避の動きには東京市場も当然巻き込まれ、そのために日銀は1月29日にマイナス金利付き量的・質的緩和策の導入を決定した。黒田日銀総裁の言うところの「株高、円安の方向に力を持っている」はずの政策を打ち出した。その結果はどうなっていたのであろうか。

昨年末には19000円近辺にあった日経平均株価は1月21日に16000円近辺まで低下していったん値を戻し、1月29日の日銀の追加緩和で18000円近くまで戻した。しかし、その後再び下落し、2月12日に15000円割れとなった。そこをボトムにやはり買い戻されるが、17000円近辺に止まっている。

同様にリスク回避により売られたドル円についても見てみると、年初に120円を超えていたのが、1月20日に116円割れでいったんボトムを形成し、1月29日の異次元緩和で121円台を回復した、そのあと2月11日に111円割れとなりここでいったんボトムはつけたが、日経平均同様に戻りきれておらず、112円台にいる。

原油価格が完全に底を打ったのかどうかはわからないが、年初からのリスク回避の動きはこれらの動きからみて1月20日頃と2月10日あたりでダブルボトムを形成し、地合はかなり改善してきた。原油が下げ止まったことで過度に悲観的な見方が後退するとともに、米国経済が底堅い状況となっていることも影響していよう。

しかし、中国経済についてはいまだ楽観視できず中国株の上値は重いが、なぜ東京株式市場やドル円の戻りが鈍いのであろか。8日に発表された10~12月期GDP改定値は速報値から上方修正されたとはいえ年率1.1%のマイナスである。日本の景気悪化が株価を抑えているとの見方もできなくはない。

もし日銀が1月に追加緩和をしなければもっと株は売られ、円高となっていたはずだと解釈するのは勝手だが、日銀が何もしなければもう少し素直に日経平均は戻り、円安となっていた可能性はあるまいか。もちろん相場にはもしはない。しかし、日銀はことマーケットに関しては円安株高をもたらすどころか、実は余計なことをしてしまったという可能性はないとは言えないのではなかろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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