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ECBの追加緩和に対する市場の反応

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

3月10日のECB政策理事会では、包括的な追加緩和を決定した。前回1月の理事会後の会見でドラギ総裁は3月の理事会で追加緩和を検討することを示唆していたため、サプライズではない。しかし、内容はややサプライズな側面があった。

政策金利の下限金利である中銀預金金利を0.1ポイント引き下げマイナス0.4%としたのは予想されていた。ところが、主要政策金利であるリファイナンスオペの最低応札金利も0.00%と従来の0.05%から引き下げたのである。さらに政策金利の上限金利であるところの限界貸出金利も0.25%(従来0.3%)に引き下げた。

特に主要政策金利を実質ゼロというより本当のゼロ%に引き下げたのがサプライズとなった。ドラギ総裁は今回の理事会後の会見で「一段の金利引き下げが必要になるとは思わない」と発言し、これが市場のネガティブな反応の要因とされたが、主要政策金利のマイナス化はスウェーデンなどの例はあるものの、そこまで踏み込むことは考えづらく、こと利下げに関しては打ち止め感を出したかったのかもしれない。

そして利下げだけでなく資産買い入れ規模を月間600億ユーロから800億ユーロに拡大した。資産買い入れの期限は2017年3月まで。資産購入の対象には銀行以外のユーロ圏企業が発行した投資適格級の社債を加える。新たな一連の条件付き長期リファイナンスオペ(TLTRO)も6月に開始することも決定した。TLTROの金利は「中銀預金金利と同じくらい低くなり得る」とした。つまりマイナス金利での資金供給の可能性を示唆した。TLTROとは資金供給の目的を限定して、銀行に期間4年の資金を貸し出す長期資金供給オペレーションのことである。

今回のECBの追加緩和では日銀のような多段階式のマイナス金利政策にするのではないかとも予想されたが、そうではなく政策金利のゼロ金利化に資産買入増額等を組み合わせた包括緩和政策とした。これは市場にとって良い意味でのサプライズになるとドラギ総裁は期待したのではなかろうか。

しかしこの日のECBの包括緩和政策を好感した動き、つまりECBの期待したユーロ安、欧州市場の株高はわずか90分程度しか続かなかった。相場の反転はドラギ総裁が会見で追加緩和の可能性を否定する発言がきっかけであったが、そもそも市場が中央銀行の追加緩和の効果に懐疑的な見方も出ていたためではなかろうか。

市場の地合の変化は昨年12月のECBの追加緩和や日銀の補完措置の決定後の市場の動向からも見て取れる。さらに1月末の日銀のマイナス金利付き量的・質的緩和の決定に際しても円安株高の動きは一時的であり、すぐに秀吉ならぬ大返しが待っていた。

ECBもこのような一連の動きは承知の上で、物価下落を食い止めようとの目的で予定していた追加緩和を行ったのかもしれない。しかし、通貨安などの市場を経由した波及効果についてはあまり期待できないどころか、むしろ逆効果となりうることも意識する必要があろう。

さらに今回気をつけなければいけなかったのは国債の動きである。これまでの中央銀行の追加緩和では他市場はさておき比較的債券市場は好感していた。むしろ日銀のマイナス金利には日本の債券市場は過剰反応を示していたぐらいであった。ところが10日のECBの追加緩和を受けてドイツの国債は下落し、英国や米国の国債も下落した。ただし、翌日の11日にはあらためてECBの追加緩和策の効果が意識されてか、イタリアやスペインの国債主体にドイツ国債も含めて買い戻されていた。

10日のECBの追加緩和による欧米市場のネガティブな動きは、8日から9日にかけて地合が悪化しつつあった日本の債券市場も直撃し、11日の日本の債券市場は先物主導で大きく下落し、8日にマイナス0.100%にまで低下していた10年債利回りは一時プラスに浮上した。大きく買われた相場の一時的な反動との見方もできるかもしれないが、最後の砦ともなっている岩盤ともいえた国債市場に多少なり動揺が走るとなれば新たなリスクが生じる可能性もある。このため今後の債券の動きにも十分な注意が必要になろう。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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