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なぜMRFがマイナス金利適用外となったのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

日銀は3月15日の金融政策決定会合で、マネー・リザーブ・ファンド(MRF)と呼ばれる投資信託について、マイナス金利の適用から外すことを決めた。MRFとは短期債券を中心に運用される公社債投資信託であり、マネーマネジメントファンド(MMF)と似た投資信託である。

MMFとMRFは、短期債主体の公社債で運用し申し込み手数料や解約手数料はかからないなどの点はおなじである。しかし、そもそもMMFが単純に資金の運用先のひとつであるのに対し、MRFは個人が証券会社の証券口座において保有株式や投資信託を売却したり買い付けしたりするための資金の一時的な滞留先として利用されており、いわば銀行の普通預金のような存在となっているという点に大きな違いがある。MRFの残高は今年2月末の残高は10兆円を超えている。

日銀が1月の決定会合でマイナス金利政策を導入したことにより、10年債の利回りが一時マイナス0.1%に低下するなど債券の利回りが大きく低下した。これによりMMFやMRFの安定した資金運用が厳しくなり、MMFについては新規の購入申し込みを停止し、運用を終了して顧客に資金を返す繰り上げ償還も実施された。

これに対してMRFについては証券取引の決済機能を担っている関係で、証券業界からは日銀のマイナス金利の適用除外とするよう求めてきた。これはMRFの資金を受託している信託銀行が日銀に預ける当座預金にマイナス金利が適用される懸念があったためであり、これにより元本割れの可能性が高まったためである。これはどういうことであるのか。

これは、MRFなどの運用資金を管理・保管している信託銀行はマイナス金利がつく短期金融商品を購入するのを避け、MRFの資金の一部を自行の「銀行勘定」に貸し出すかたちで移しており、銀行勘定に現金が急速に積み上がった結果、日銀当預のうちプラス金利が適用される基礎残高部分を超えてしまう状況となっていたためである(ロイター)。つまり預金のかたちでの運用でもマイナス金利が適用され元本割れのリスクが出ていたのである。

これらの動きは日銀のマイナス金利政策により起こるべくして起きたことではあるが、証券業界などからの要望もあり、日銀は対応策を講ずることになった。

「ゼロ%の金利を適用するマクロ加算残高の見直しを原則として3か月毎に行う、MRFの証券取引における決済機能に鑑み、MRFを受託する金融機関のマクロ加算残高に、受託残高に相当する額(昨年の受託残高を上限とする)を加える」

要するに昨年の残高を上限として、MRFの分はマイナス金利が適用される政策金利残高ではなく、ゼロ金利が適用されるマクロ加算残高に適用させるとした。昨年の受託残高を上限としたのは逃げ道を塞ぐ目的もあるかもしれないが、株式市場動向などによってはMRFの残高が増減することが予想されるため、これはやや腑に落ちない部分ではある。ただし、残高そのものの算出方法の詳細は今後定めるとしている。

これによってMRFの資金部分が日銀の当座預金上でのマイナス金利が適用される懸念は後退した。ただし国債ばかりでなく、企業が発行するCPも決済業務を担う証券保管振替機構が取引システムの改修を進めたことでマイナス利回りの発行が可能となるなど、信託銀行などの資金の運用そのものが厳しい状況にあることに変わりなく、いずれ信託銀行が運用会社など資金の出し手に手数料を求めるような可能性も出ているようである。参考までに16日に公表された日銀の業態別当座預金残高によると、信託銀行のマイナス金利適用残高は全体の約23兆円のうちの9兆9650億円となり、業態別では最も多くなっていた。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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