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日銀の現状維持で株急落の背景

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

28日の日銀金融政策決定会合で金融政策は現状維持とした。量と質の現状維持には木内委員が反対し、マイナス金利に関しては木内委員と佐藤委員が反対した。このあたりの構図は前回の3月の会合とまったく同じであった。ただし、今回は熊本地震の被災地の復旧・復興に向けた被災地金融機関支援オペを実施することも決定したが、これは追加緩和には相当しない。

この現状維持に対して、東京株式市場は予想以上の反応を示し、日経平均は600円を超す下げとなった。しかし、ここでも下げ止まらず、CMEの日経平均先物は米株の下落も手伝って海外時間で16120円まで下落している。28日の日経平均先物の引けが17270円であったことで、1000円以上も下落したことになる。ドル円も昨日の高値111円80銭台あたりから、引けあと108円を割り込むなど4円近くも下落した。

なぜ日銀の金融政策が現状維持となっただけで、東京市場はこれほどの動揺を見せたのであろうか。ひとつのきっかけは、4月22日に出されたブルームバーグの記事、「日銀:金融機関への貸し出しにもマイナス金利を検討-関係者」にあった。

この記事では「複数の関係者によると、今後、日銀当座預金の一部に適用している0.1%のマイナス金利(政策金利)を拡大する際は、市場金利のさらなる引き下げを狙って、貸出支援基金による貸出金利をマイナスにすることを検討する可能性がある。」とあった。英文では複数の関係者は「BOJ Official said」となっていた。しかし、日本語の記事からは日銀の関係者からのコメントであるとは触れておらず、民間エコノミストの「案」がいくつか紹介されていた(28日の会見で黒田総裁は貸出金利のマイナス化については議論はされなかったと発言していた)。

熊本地震もあり、日銀も何らかの動きを示すことが予想され、支援策となれば貸し出しに絡んだものも想定される。そうであればECBが3月10日に導入を決定したTLTRO2と呼ばれる物に近いものとなる(現実には被災地金融機関支援オペというかたちとなった)。貸し出しにマイナス金利を課すのではとの観測は、ECBの決定後にも出ていたことで特に目新しいものではなかった。

ただし、このブルームバーグの記事には「マイナス金利(政策金利)を拡大する際は」という前提も付けられていた。批判が高まっているマイナス金利の深掘りは容易とは思えないにもかかわらず、日銀はやる気なのかとの思惑も強まった可能性がある。

この記事を受けて東京市場では、株式市場や外為市場を中心に急速に日銀の追加緩和期待が高まった。ドル円は22日のニューヨーク外国為替市場で111円80銭台をつけるなど、さらに円安が進んでいた。CFTCが発表しているIMM通貨先物の集計において、投機筋の円の買越額が過去最大水準となっていることで、何かしらのきっかけで反対売買(円売り)が入りやすかった可能性があった。ただし、投機筋の円の買越額が過去最大水準となっていた背景としては、今後のトレンドとして円高を見込んでいたこともあったとみられる。そのトレンドがもしや修正されるかもとの警戒もあったのではなかろうか。

市場関係者のマインドが追加緩和に傾いていったのは、QUICKが27日に市場関係者に向けて行った緊急アンケートの結果からも読み取れる。実に市場関係者の59%が「追加緩和に踏み切る」と回答していたのである。ブルームバーグの記事が出る前には追加緩和期待がそれほど高まってはいなかった。それが市場別では株式担当の65%、外為担当の64%、そして債券担当も52%と追加緩和予想が半分を超えていたのである。これは私もさすがに驚いた。

展望レポートで物価などの見通しを下方修正し、物価目標達成時期を先送りする可能性があり(実際に下方修正され、先送りもされた)、そのため追加緩和を検討かとの思惑もなくはない。しかし4月27、28日の金融政策決定会合で金融機関への貸し出しのマイナス金利化と合わせてマイナス金利の深掘り、つまり現状のマイナス0.1%をマイナス0.2%にするのかといえば、ハードルは依然として高いとみられていた。QUICKのアンケートではたしかにマイナス金利の深掘りを予想する向きはむしろ少なく、量か質の拡大や貸出支援基金へのマイナス金利適用との回答が多かった。

それでも量で使えるカードはあと一回程度、質だけでは株価対策のようになってしまう。深掘りのない貸出支援基金へのマイナス金利適用だけをするとなれば戦力の逐次投入となってしまう。どう考えても日銀がこのタイミングで貴重なカードを使うことや、逐次投入ペースとすることは考えづらかったはずである。それでも市場に急かされる格好で追加緩和はあるのか、との見方も出ていたのかもしれない。それはしかしサプライズを重視していた黒田総裁の過去の政策変更パターンともそぐわない。

ということで金融政策決定会合の結果は現状維持となったが、これだけ追加緩和期待が強まり、それなりのポジションが積み上がっていたこともあり、大きな反動が出たとみられる。本来、円高に賭けていた向きがあらためて円買いを仕掛けてきた可能性もある。またゴールデンウイーク前ということでのポジション調整の売りも株式市場には入ったことも考えられ、これらにより今回の東京株式市場の急落を招くことになったと思われる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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