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非伝統的な金融政策の評価と出口

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

非伝統的な金融政策にどのような効果があるのか。2001年から2006年の日銀以外にそれを確かめる術はなかったが、サブプライムローン問題を発端とし、リーマン・ショックに至る危機や、その後のギリシャの財政問題を発端とする欧州の信用危機に対処するため、日米欧の中央銀行は非伝統的な手段を取り入れざるを得なくなった。このためだいぶデータも揃ってきているとみられ、いずれ非伝統的な金融政策の効果についての総括も出てくることを期待したい。

そもそも非伝統的な金融政策とは何か。

伝統的な金融政策とは政策金利と呼ばれる短期の金利(対象は中銀によって異なる)を上げ下げすることで、景気や物価の勢いにブレーキを掛けようとするものである。ところがその政策金利がゼロとなってしまった際に取られる手段が非伝統的な手段となる。

非伝統的な手段としては2001年に日銀が行った量的緩和が代表的なものとなる。2013年4月の日銀が行った量的・質的緩和は、手段は前回とほぼ同じではあるが購入する国債の金額や買入資産の年限の長期化などに違いがあった。FRBは2008年11月に市場でQEと呼ばれる量的緩和をスタートさせ、当初は住宅ローン担保証券が対象となったが、その後対象を米国債にも拡げた。イングランド銀行も2009年3月に量的緩和策として英国債の買入を決定した。

ECBについては欧州の信用不安を沈めるために2010年5月に国債買い入れを決定したが、国債買入で放出した資金を回収する手段を講じていたことで、これは量的緩和ではなかった。ECBは量的緩和ではなく、2014年6月に政策金利の下限金利をマイナスにすることで、マイナス金利を取り入れた。マイナス金利政策が伝統的手段であるのか非伝統的手段であるのかの峻別は難しいが、政策金利が実質ゼロ%となったあとに取られる手段が非伝統的手段と考えれば非伝統的手段であるともいえる。その後ECBは2015年1月にドラギ総裁の念願ともいえた国債買入型の量的緩和導入を決定した。また、スイスやスウェーデンなども為替絡みで量的緩和やマイナス金利政策をとっていた。

果たしてこの日米欧の中央銀行の非伝統的手段による金融政策は何らかの効果があったのか。これについては検証を待つ必要はあるが、少なくとも市場の動揺を抑えるために貢献したことは確かではなかろうか。ただし、一応その目的となっていた物価の浮揚効果に対してはかなり疑問が残る。

特に市場の動揺が収まったタイミングで実施されていた日銀の異次元緩和やECBのマイナス金利政策などは、明らかに物価安も意識しての通貨安を狙ったものとみられた。しかし、その通貨安についても市場は素直な反応をみせなくなってきたのがここ数か月ぐらいの動きとなっている。

それでは非伝統的な金融政策の出口政策はどうなるのであろうか。2006年の日銀の量的緩和策からの出口政策は簡単であった。日銀の操作圏内にある短期金融市場だけの量的緩和であったため、元に戻すのは容易であった。ただし、国債の買い入れは減額しなかったというより、できなかった。

FRBについてはかなり慎重に出口政策がとられた。日銀ができなかった国債買入の減額を実施して、テーパリングを終了させた。その後利上げまでこぎ着けたが、膨れあがったバランスシートの縮小はこれからの課題となる。

ECBについてもマイナス金利の部分の正常化はそれほど問題はないとみられる。国債の買い入れの減額についても米国と同様に市場に動揺をもたらすことは考えづらいか。もちろん正常化に向けた前提条件がある程度整っていればとの条件下ではあるが。

問題は日銀となろう。世界で二番目の大きさを誇る我が国の国債市場であるが、異次元緩和により日銀の保有割合が大きく増加し、その分影響力もさらに大きくなった反面、市場の流動性が後退した。1998年の運用部ショックのトラウマもたぶん残っており、国債買入の減額ということになるテーパリングはかなり慎重に行わないと市場の動揺を招きかねない。そもそも日本の国債市場が金利の上昇に耐えられるのであろうかとの疑問も残る。非伝統的な金融政策の出口政策をみる上では、日銀の対応が最大の焦点となろう。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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