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日本政府による為替介入の可能性

久保田博幸金融アナリスト
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

麻生太郎財務相は5月9日の参院決算委員会で、ドル・円相場の急激な変動は望ましくないとして「介入する用意があるということを申し上げる」との見解を示した。米財務省が外国為替報告書で中国と日本、ドイツ、韓国、台湾を監視リストに入れたことについては、「為替政策は今、制約を受けるというわけでもない」とも述べた(ブルームバーグ)。

この「当然介入の用意がある」と発言した理由について麻生財務相は、「急激な為替変動が経済に好影響を与えないことはG7、G20でも合意されており、一方的な偏った状況が続くなら介入する用意があるため」と説明した。最近の為替動向は「一方的に偏しており、さらにこの方向に進むのは断固として止めねばならない」と強調した(ロイター)。

米財務省は4月29日に貿易相手国の通貨政策を分析した半期為替報告書において、対米貿易黒字が大きい日本や中国、ドイツなど5か国・地域を監視リストに指定した。米当局は相手国が不当な通貨切り下げなどを強めれば、対抗措置がとれるとしている。年明け以降の円高・ドル安については、市場は秩序的だと評価し、日本の円売り介入を改めてけん制した格好となった。

このあたり日米の見解の相違がある。米国は年初からの円高ドル安について秩序的だと評価しているのに対し、麻生財務相は一方的に偏していると評している。この見解の相違はいまに始まったことではなく、4月14日から15日にかけてワシントンで開催されたG20の前後においてもルー財務長官と麻生財務相が同じようなやり取りをしている。

ただし問題は為替の動きが秩序的なのか、一方的に偏しているかとの認識ではなく、今回の円高に対して日本が為替介入を行うことが現実に可能かどうかということになるのではなかろうか。

日本の認識では為替介入は可能ということになろうが、それを行えば相手国となる米国の批判を浴びることは目に見えている。5月の伊勢志摩サミットも控えて米国との対立は避けたいであろうし、さらに米国の大統領選挙も控えている。仮に日本が為替介入を行えば、大統領候補は米国民の賛同を得るために日本を攻撃の矛先に加える懸念がある。

そもそも為替介入で円安となるのかという問題もある。円売りドル買いであれば、日本政府はいくらでも資金を調達することができるから負けるわけないとの指摘が以前あったが、円売りであろうと円買いであろうと市場に勝てる保障はまったくない。むしろ個人的には負ける可能性が強いと思っている。すでに金融緩和での通貨安もできない状況下、力尽くでの介入は市場の敵対心を煽るだけとなる可能性もありうる。

それでも為替介入やそれに先んじてのレートチェックはいつでも出来ると市場に認識されておかないとならないというのが日本政府の意向でもあろう。しかし、それすらも市場で見透かされると、むしろ円買い圧力を強め、介入の可能性を試すようなことも考えられる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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