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いま何故、G7で財政政策なのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

5月26日、27日にかけて開催されている伊勢志摩サミットでは、議長国である日本は安倍首相が世界経済を支える強いメッセージを打ち出す必要を訴えてきた。これは安倍政権の基盤そのものがアベノミクスと呼ばれた経済政策が柱であったため、アベノミクスの海外拡大版を意識したものであろうか。

20日、21日に仙台の温泉地である秋保で開催されたG7財務大臣・中央銀行総裁会議では、協調しての財政出動に関して英国やドイツの慎重姿勢に変化はなく見送られた。これに関しての一連の議論は伊勢志摩サミットに引き継がれたようだが、やはり合意は難しいと思われる。

ここにきて何故、財政政策なのか、それは年初からの原油安やその要因でもあった中国の景気悪化などによるリスクオフの動きも意識されたのであろうか。ただし、中国の景気減速はそもそも中国のバブル崩壊とも言えるべきもので、それが少し日米欧の積極的な金融緩和で先送りされていたところ、米国の利上げなどもあって顕在化したものであろう。その影響は無視はできないが、そのリスクオフの要因のひとつであった原油価格は反発し、WTIは50ドル近辺にまで戻ってきている。これをみても今になって何かしらの危機対策で、緊急の財政政策を打つ必要性は各国首脳もそれほど望んではいないのではなかろうか。

7か国の間には協調しての財政出動に関して温度差があると指摘されている。積極的なのは日本と米国、中立ながらもやや前向きであるのがカナダ、フランス、イタリア。財政再建に取り組む英国と財政規律を重んずるドイツが消極的という構図とされる。

ただし、現実問題として積極的な財政政策を打ち出せる国は本来いない。そもそも何故、欧州の信用不安に対し中央銀行の積極的な金融緩和に委ねられたのかといえば、財政政策に限界が見えたためであった。フランス、イタリアにはそんな余裕があるとは思えない。さらに米国も同様であり、自分の国はさておいて日本やドイツが頑張ってくれるなら応援するよとの認識ではなかろうか。

日本もこれだけの政府債務を抱えて2020年のプライマリーバランスの黒字化を目指すはずが、どうやら消費増税は見送るだけでなく、積極的な財政政策も打つつもりなのであろうか。日銀が異次元緩和と称して大量に国債を購入し、マイナス金利政策まで加え、長期金利までマイナスと化している状況下、国債を発行すれば儲かるような図式となっている。ここでの積極財政、その財源としての国債増発となれば財政規律の緩みも意識されよう。

国債というか長期金利はすでに、このようなリスクを示す指標とはなっていない。だから問題ないということではない。そのサインが出ないようにと国債管理政策等も進められてきた。急激な金利上昇は20年間起きなかったことがこれから起きるわけはないと言う人もいる。しかし、過去の歴史を振り返ると国が財政ファイナンスを行って成功した事例はないことも確かである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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