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政府と日銀との共同声明と現実のギャップ

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

北海道新聞によると、日銀の黒田総裁は30日、函館市内で北海道新聞の単独インタビューに応じ、黒田氏は「2013年1月に出した政府と日銀との共同声明で、政府は財政再建を進めていくことを約束している」と述べたそうである。これについて北海道新聞は、政健全化の重要性を改めて強調するこの発言は、消費税率引き上げを2年半再延期するという安倍晋三首相の方針に懸念を示したものだと指摘した。

安倍首相は30日に自民、公明両党幹部と首相官邸で個別に会談し、増税延期方針を説明し協力を要請、衆参同日選を見送ることも伝えた。さらに麻生副総理兼財務相ともあらためて会談し、麻生氏は消費増税延期を容認し、増税延期の場合、実施を主張していた参院選に合わせた衆院解散についても見送る首相方針を受け入れた。これにより、国会会期末の6月1日にも増税延期を正式表明する。

黒田総裁が指摘していた政府と日銀との共同声明では「日本銀行は、物価安定の目標を消費者物価の前年比上昇率で2%とする。日本銀行は、上記の物価安定の目標の下、金融緩和を推進し、これをできるだけ早期に実現することを目指す。」とある。

これに対して「政府は、日本銀行との連携強化にあたり、財政運営に対する信認を確保する観点から、持続可能な財政構造を確立するための取組を着実に推進する。」とあった。

この共同声明が出たころの日銀総裁は白川氏であった。共同声明とはアベノミクスがスタートし日銀に物価目標を課して政府の意向を強く反映させようとしたものである。かつての米国の政府とFRBのアコードと呼ばれた政策を都合良く解釈したものの日本版といったものである。

これに対し日銀はその後、黒田総裁となって異次元緩和を行い、2年で2%の物価目標を達成するとした。しかし、国債を大量に購入し、マネタリーベースを思い切って増加させても物価目標は3年以上経過しても達成どころか前年比ゼロ%近辺でうろうろしている。

さらに政府は財政健全化を推し進めるどころか、リーマン・ショック並みのクライシスに備えてという訳のわからない理由で、予定されていた来年の消費増税を先送りすることをほぼ決定した。

2013年1月に出した政府と日銀との共同声明が結果として、日銀による国債の大量買い入れに繋がり、それは物価を上げることはなく、今度は政府は財政健全化のひとつの大きな政策であったはずの消費増税を取りやめた。

財政ファイナンスのようなことをしても日本の国債市場は素直に買われていたことは事実である。日銀のマイナス金利政策により10年債利回りもマイナスとなった。日銀の国債買入で需給はタイトであり、そう簡単に日本国債が急落するようなことは考えづらい。しかし、日銀が金融政策の枠組みを変更し少しでも出口を見えるような政策に変更するならばともなく、日銀は物価目標達成のためとしてこのまま大量に日本国債を買い入れ、政府は消費増税を延期し拡大財政政策に向かうようであれば、さすがに日本国債もこのまま安泰ということはむしろ考えづらい。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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