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アベノミクスとポケモノミクス

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

菅官房長官は21日の記者会見で「ポケモンGO」が米国をはじめ世界各地で人気化し「ポケモノミクス」と呼ばれる現象となっていることについて、一般論としつつ「我が国のコンテンツが海外を含めて広く親しまれることは極めて喜ばしい」と述べた。政府として「コンテンツの海外展開を支援していきたい」とも語ったそうである(日経QUICKニュース)。

私が任天堂の株価の異変に気がついたのは7月12日になってからであったが、すでにその兆候は8日の任天堂の株価に現れていた。7月7日に米国でポケモンGOが公開されるやいなや、そのダウンロードは記録的な数となり、人々が教会などに繰り出すなど社会現象となっていたのである。

任天堂の株価は7日には15000円あたりにいたが、7月11日に2万円台に乗せていた。さらに7月19日には3万円台に乗せたことで7日の株価からは倍以上の急騰となったのである。このあたりの動きはDSが品切れとなるなどしたことでの2007年の任天堂株の上昇を彷彿とさせるものとなった。

米国から流れてくるニュースを見て、これは日本でもすごいことが起きるのではないかと私がツイートしたのが12日あたりからであり、そのツイートのひとつにこんなものがあった。

「前FRB議長に相談してヘリポケを実施し、国内主要観光名所等にレアなポケモンをバラ蒔いて、海外観光客も呼び込むなどのポケモノミクスの実現を。。。」

ポケモン(Pokemon)の最後のNを使えば、アベノミクスのような言葉が作れると考えたのがポケモノミクスであった。オリジナル用語であるものの、同じようなタイミングで思いついた人がいたとしてもおかしくはないが、とにかくこのポケモノミクスという言葉がニュースでも報じられるようになってきたのはうれしい限りである。ツイッターでポケモンGOのことを何度がツイートしたところ海外通信社から取材が入ったのはびっくりした。

それはさておき、菅官房長官は海外で公共マナーや安全性が懸念されていることにも触れ「スマホを安全に使って頂くために注意喚起をしたい」と表明したが、内閣サイバーセキュリティセンターはゲームに集中するあまり事故に遭わないようLINEやツイッターで注意点を知らせる取り組みも始めているそうである(NHK)。

もしかすると政府はまだ日本では公開前にも関わらず、このポケモノミクスを成長戦略のひとつとして位置づけようとしているのかもしれない。

政府が新たにまとめる経済対策の事業規模を20兆円超で調整していることが20日、分かったと毎日新聞などが伝えている。事業規模20兆円の内訳としては国・地方の追加の財政支出が3兆円超としている。そうであれば国債の増発があったとしても市中消化額が増えるといったことにはならず、国債市場にはさほど大きな影響は与えないと思われる。

この経済政策で景気にどれだけ影響を与えられるのか。民間事業に長期融資などを行う財政投融資が最大6兆円程度とされ、このなかにはリニア新幹線への融資なども含まれているようである。もちろんこれによる経済効果はあろうが、それで物価を2%に持っていくといったことは考えづらい。

政府の対策としては、今回のポケモノミクスといった国内にあるコンテンツをグローバルに展開させる動きに対しても支援するような仕組みも大事なのではないかと思われる。国内企業が潤えば当然ながら景気に刺激は与えられるし、それはすでに株価が敏感に反応し、マクドナルドなどの株価も上昇している。

日銀が大量に国債を買い入れて人々の物価観は簡単に動かせない。しかし、目に見えるかたちで皆がお金を使っていることがわかれば、景気とともに自ずと物価も上がってこよう。株価が上がると円安との好循環も生まれるのがいまの市場でもある。

国債の利回りをマイナスにまで強制的に引き下げても簡単にマネーは動かない。これまでのアベノミクスは「北風と太陽」のイソップ物語で言えば北風であった。しかし、本来必要なのは太陽であることを意識した上で、新たなアベノミクスを構築することも重要ではないかと思われる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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