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FRBの9月利上げへの地均しか

久保田博幸金融アナリスト
(提供:U.S. Federal Reserve/ロイター/アフロ)

FRBのフィッシャー副議長は21日、コロラド州のアスペン研究所での講演において、米経済が既に金融当局の掲げる目標の達成に近づいており、成長が今後勢いを増すだろうと述べ、これまでの姿勢に変化がないことをあらためて示した。これは少なくとも年内1回の利上げの可能性を示唆したものと受け止められた。

ニューヨーク連銀のダドリー総裁は16日のインタビューで、追加利上げが適切となる時期にじわじわと近づいていると述べ、9月20、21日の会合で利上げを決定する可能性はありうると指摘した。フィッシャー副議長はここまで具体的なコメントはしなかったが、追加利上げに向けて引き続き前向きの姿勢であることを示した格好となった。

26日にイエレン議長の講演を控えているにも関わらず、相次いでFRBの執行部から利上げに前向きとも取れる発言が相次いだのは何故であろうか。これは6月と7月のFOMCで利上げが見送られた上に、イングランド銀行が包括緩和策を決定するなどしたこともあり、市場ではFRBによる年内利上げ観測が急速に後退した。しかし、FRBのスタンスには大きな変化はないことをあらためて示す必要性を感じたためとの見方もできるのではなかろうか。

本来であれば、次の政策変更を予定していたとしても市場に対しては過度な先入観を与えないようにするため、イエレン議長やフィッシャー副議長、ダドリー総裁などはバランスを保つことをこれまで重視していた。誰かが利上げに前向きな姿勢を示すと、別の人物がそれにブレーキを掛けるなどして調整を図っていた。ところが今回は市場が利上げの可能性を後退させてしまい、特に9月の利上げの可能性を指摘する向きは少数派となっている。市場との対話の上でこの予測を多少なりとも引き寄せることが、このタイミングでのダドリー総裁やフィッシャー副議長の発言の意図となっていたのではなかろうかとも推測されるのである。

そうなると26日のジャクソンホールで予定されているイエレン議長は、バランスを取るというよりも、フィッシャー副議長と同様に英国のEU離脱というショックや一時的な米雇用統計の数字の悪化があったにも関わらず、FRBのスタンスには大きな変化はないことを示す可能性が高いと思われる。その上で9月のFOMCで利上げを決定する可能性がありうることを示唆してくるのではなかろうか。

米国ワイオミング州ジャクソンホールで開催されるカンザスシティ連銀主催のシンポジウムは、市場参加者にとり大きな注目材料となっている。過去の歴史を見ても、このシンポジウムでは主に金融政策に関わる興味深い出来事が多かった。

2013年5月22日にバーナンキ議長(当時)の会見でテーパリングの意向が明らかとなったことで、9月のFOMCでテーパリング開始が決定されるのではないかとの観測が強まっていたが、この年のジャクソンホールにバーナンキ議長は異例とも言える欠席をした。

2015年には年内利上げをすでに示唆しているイエレン議長も本来であれば主催者ともいえる立場でありながら(形式上はカンザスシティ連銀主催)、ジャクソンホールは欠席していた。

今年も仮に9月に利上げを模索するのであれば上記の伝統?に従えば、欠席してもおかしくはない。しかし、FRBの利上げのターゲットは9月の前に予定していたとすれば、今回特に欠席する必要性はなかった。

ただし状況は変わり今回のジャクソンホールでのイエレン議長の講演があらためて注目されるようになった。ここをむしろ利用して市場との対話を図る可能性がある。その前座となった格好のダドリー総裁やフィッシャー副議長の発言内容がその内容を示唆していると思われる。やはり9月のFOMCでの利上げ決定の可能性は市場が意識しているものより、高いのではなかろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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