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異次元緩和の効果の検証

久保田博幸金融アナリスト
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

日銀のよる大胆な国債買入を中心とした異次元緩和は果たしてデフレからの脱却を可能にしたのか。9月の日銀の金融政策決定会合で示される総括的な検証では、このあたりについても具体的に検証されるであろうと期待したい。

量的・質的緩和を決定してから数日経っての2013年4月12日の講演で黒田日銀総裁は次のように発言していた。

「買入れの平均残存期間を、現状の3年弱から国債発行残高の平均並みの7年程度に延長しました。これまでのような短めの金利だけでなく、イールドカーブ全体の金利低下を促すことにより、経済・物価への働きかけを強めていくためです。」

この際に異次元緩和のトランスミッション・メカニズム(波及経路)として黒田総裁は3つの経路を指摘した。国債の金利全体やプレミアムに対する働きかけること、ポートフォリオ・リバランシングの効果、さらには期待を通じた効果となる。

最初に指摘した働きかけは確かに効果があった。国債の利回りは低下し、今年1月に決定したマイナス金利政策も加わって、今年7月には20年債利回りもマイナスとなる場面があった。

しかし、問題はここから先となる。金利は素直に低下した。しかし、それによって貸し出しなどが目に見えて増加してはいない。金利低下が結果として物価上昇に働きかけることもなく、物価は低迷している。ここにはそもそも金利から物価へと繋がるはずのトランスミッション・メカニズムが働いていなかったことになるのか。そうであれば、いくら金利を深掘りしようともあまり意味がないということになる。

「これまで長期国債の運用を行っていた投資家や金融機関が、株式や外債等のリスク資産へ運用をシフトさせたり、貸出を増やしていくことが期待されます。これは、教科書的にはポートフォリオ・リバランス効果と言われるものです。長期国債の買入れの平均残存期間を思い切って延長したのは、この効果を意識したものです。」

ポートフォリオ・リバランシングの効果については、GPIFも巻き込んで国を挙げて実施した格好となった。年金運用で株式投資の比率を高め、日銀もETFなどを積極的に購入した。国債が日銀に買い占められ、さらにその利回りがマイナスとなったことから、機関投資家は外債などに資金をシフトせざるを得なくなった。

ところが米国の株価指数が過去最高値を更新しているにもかかわらず、日経平均は戻り切れていない。ドル円もここにきて一時100円を割り込むような状況となっている。はたしてポートフォリオ・リバランシングにどのような効果があったのか。それがどのようにして物価に波及するはずであったのか。このあたりの検証結果も確認したいところである。

そして最後の期待を通じた効果というものが一番良くわからない。これは期待を図る道具がないため検証しようにもできないためである。当初、日銀は物価連動国債から算出されるブレーク・イーブン・インフレ率を使おうとしていたが、それはあまり意味のないものであることがわかったようで、最近はあまり使っていない。アンケート調査にしても、それをもし自分が答えるときに何をもって1年後の物価が予想しうるかを考えると適格な予想が出せる自信はまったくもってない。

学問上での期待は存在するかもしれないが、日銀が操作しうる期待がどこに存在しているのかかがわからない。少なくとも日銀が国債を大量に購入したら、その期待が動くという理屈がわからない。このあたりについても日銀の検証で具体的な説明がほしいところである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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