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ラーメンが通貨になる理由

久保田博幸金融アナリスト
(写真:アフロ)

BBCによると米国の刑務所では今やたばこよりもラーメンが、最も兌換性の高い主要通貨になりつつあるという研究が米アリゾナ大学博士課程の研究生によって発表されたそうである。

「ラーメンは安いしおいしいし高カロリーなので、どんどん価値が上がっている。あまりに貴重なため、他の物との交換に使われている」と発表したギブソン・ライト氏が語ったそうである。

ラーメンは安く、日持ちする食品でもあり、他の食品や衣類、衛生用品といった物との交換に使われるそうである。刑務所内でたばこ製品が禁止されたこともひとつのきっかけとされている。

通貨とは元々は貴重な貝殻や石であった。貨幣という漢字に貝が使われているのはその名残である。それが時を経て金などの貴金属に変わり、更に文明の発達や信用などが築かれることによって価値が書かれた紙、つまり紙幣が使われるようになった。

しかし、閉ざされた空間のなかでは、このように物がいまでも通貨の役割を担うことがある。江戸時代は金貨、銀貨、銭の三貨制度が有名ながらも、ある意味「米」が通貨の役割を担っていた側面もあった。

江戸時代といえば将軍綱吉の時代の勘定吟味役の荻原重秀という人物が「貨幣は国家が造る所、瓦礫を以てこれに代えるといえども、まさに行うべし」と述べたとも伝えられている。貨幣の発行には信用の裏づけがあればたとえ瓦でも石でも良いとする、現在の管理通貨制度の本質を当時すでに見抜いていた人物でもあったとされる。

日銀は異次元緩和によって大量の資金供給を行ってデフレ脱却を図ろうとした。つまり刑務所内でのラーメンの価値を引き下げようとしたことになる。ところがなかなかラーメンの価値は下がらない。ラーメンを何かに交換しようとしても、それと交換するものにあまり価値が見いだせないため、ラーメンをむしろ保管している方が安全だとの認識が強いためだと思われる。ラーメンを交換しても価値が見いだせるものがここには必要となる。つまりそのためにはラーメン、いやお金を使わせるインセンティブが必要となる。しかし、それは日銀の金融政策で何とかできるものでもないであろう。

日銀の金融政策の目的は物価の安定を図ること、つまりはこの通貨価値の安定にある。中央銀行の金融政策とは通貨価値が不安定となっているときにその価値、信用を立て直すことが本来の目的のはずである。その通貨価値を不安定にさせることで、デフレからの脱却を図るというのも本末転倒となる。このあたりもデフレからの脱却に対して、なかなか金融政策では有効な手段を見いだせない要因になっているのではなかろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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