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全銀協会長が日銀のマイナス金利政策を牽制

久保田博幸金融アナリスト
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

全国銀行協会の國部毅会長は15日の記者会見で日銀が行う金融緩和策の総括的な検証に関連して、「マイナス金利政策は現状では効果が出ていない」としてマイナス金利の幅の拡大には極めて慎重であるべきだという考えを示した。

國部会長は「特にマイナス金利政策を検証することが重要だ。金融の現場から見れば、住宅ローン金利などは低下しているが、前向きな投資は増えておらず、現状では効果が出ていない」とし、その上で、國部会長は「マイナス金利の深堀りによってさらに金利が下がれば、銀行の収益が圧迫されて金融仲介機能が低下し、実体経済にも悪影響を及ぼしかねない」と述べた(NHKのニュースより引用)。

今回の日銀の総括的な検証にあたっては、市場に対してはサプライズを止めることで市場との対話を進める姿勢に転じたように見受けられる。金融機関に対してもイールドカーブのスティープ化により長短金利差の拡大を促すことで、金融機関の収益にも配慮する姿勢を示すことで、マイナス金利の深掘りについても理解を得ようとしているように思われる。

ところが肝心の銀行業界の國部毅会長(三井住友銀行頭取)から、マイナス金利の深掘りについて釘を刺すような発言が、このタイミングで出てきた。

日銀の総括的な検証の目的は、いうまでもなく物価目標が達成できていない理由を洗い出すとともに、その上で追加緩和手段を模索することになると思われる。

しかし、これには大きな矛盾が存在する。結論から言えばリフレ政策を取り入れた大胆な金融緩和策で物価を動かすことはできなかったことは誰の目にも明らかである。日銀としてはその理由を金融緩和の波及経路の阻害要因に求め、それを基に緩和手段に間違いはなかったとして、あらたな追加緩和手段を提示することが総括の目的とみられるが、これもかなり無理がある。

本来であれば、大胆な緩和手段そのものに対する大胆な検証が必要なはずであるが、負けを認めるわけにはいかない状況下、日銀としては撤退ではなく転進の方向を探ることも目的になっているように思われる。

量・質・金利の三次元でさらに前進するように見せるための手段としては、特に今年に入り執行部が検討し決定会合で導入されたマイナス金利政策を推し進めざるを得なかった面があろう。そこで苦肉の策として出されたものがイールドカーブのスティープ化とマイナス金利の深掘りのセットであったと予想される。

これについては金融機関との対話がそれなりに進められていたのではないかとみていたが、どうやらそうでもなかったようである。少なくとも三井住友銀行頭取でもある全国銀行協会の國部毅会長とは対話が出来ていなかったように見受けられる。

日銀がマイナス金利の深掘りをせざるをえないのであれば、マクロ加算分を増やすなり、階層を増やすとか、銀行にとってのセーフティーネットを増やして極力悪影響が出ないよう工夫してくるのではと予想していたが、いまのところそのような観測も出ていない。

仮に日銀執行部がセーフティーネットを考えていたとしても國部毅会長には伝わっていなかったのか、そもそも三層方式を変更するつもりもなかったのか、修正したとしても銀行の収益はいずれにしても悪化するとの見通しを全国銀行協会がしていたのか、このあたりはわからない。

今回の國部会長の発言は、21日の総括とそれによる追加緩和手段の模索に対して、少なからず影響を与える可能性がある。いずれにしても日銀にとっては無理を通せば道理が引っ込むような状況にあることも代わりはない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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