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日銀の検証の目的に金融機関との関係改善も

久保田博幸金融アナリスト
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

日銀は4月と10月に金融システムレポートを出しているが、このなかに「金利上昇に伴う円債時価の変動」という表がある。ここに金利が上昇した際の金融機関の保有国債における評価上の損失額の推計値が示されている。

直近の金融システムレポートによると金利が1%上昇した際の金融機関全体の損失推定額は7.1兆円となっている。ただし、この推計にあたっては金利のパラレルシフトを想定している。つまり、短いところから超長期の国債まで全体が1%上昇するという前提となっている。

7月6日に20年国債の利回りはマイナス0.005%をつけて初めてマイナスを記録した。しかし、ここから今度は超長期の金利は上昇し始め、9月12日に0.475%と0.5%に接近した。7月6日から0.5%もの金利上昇となっていたが、特にこれは問題視されてはいない。もちろん長期債が買い進まれるなかにあって、運用難のなか超長期債を購入し、評価損を抱えてしまった金融機関もいたとみられるが、それよりもこの金利の上昇と言うか、復活を喜んでいる金融機関の方が多かったのではなかろうか。

黒田総裁はマイナス金利の導入に際してはこれまでの収益の蓄積があることや、マイナス金利を三層構造にするなどして「マイナス金利は金融機関の収益に悪影響与えていない」という主張をしていた。ところが9月5日の講演で黒田総裁はマイナス金利政策について「金融機関の収益に与える影響が相対的に大きい」と述べ、コストつまりは副作用について踏み込んだ発言をしていた。

マイナス金利政策に対しては今年4月に三菱UFJフィナンシャル・グループの平野信行社長が、銀行にとっては「短期的効果は明らかにネガティブだ」と述べていた。さらに三菱東京UFJ銀行は、国債市場特別参加者」(プライマリー・ディーラー)の資格を国に返上したが、これも日銀のマイナス金利を含めた国債政策による影響との見方もできる。

これがいったい何を意味しているのか。事はかなり重大であると言わざるを得ない。日銀の金融政策は当然ながら金融機関のために行っているものではないが、金融市場つまりは金融機関を通じて効果を発揮しようとするものである。日銀の金融政策は当たり前だが金融機関なしには成り立たない。

これまでの日銀の金融政策についてはメガバンクがそれを支援するような格好となっていた。日銀の量的・質的緩和についてもメガバンクは国債残高を落とし、それにより日銀が国債を買い入れる余地を作っていたともいえる。しかし、マイナス金利の導入で日銀と大手金融機関に亀裂が走ってしまった。

今回の日銀の総括的な検証の目的のひとつは、この金融機関との関係改善にあるのではないかとも思われる。大胆な緩和策の限界が意識されるなか、金融機関との関係改善を図るためのひとつの手段として国債のイールドカーブの修正が意識されたのではないかと思われるのである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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