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FRBが9月21日に利上げをしなかった理由

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

28日にFRBのイエレン議長は下院金融委員会の公聴会で証言し、「ことしの就業者の数は毎月、平均して18万人のペースで増えている」と述べ、「決まったタイムテーブルはない」としながら、「金融政策を決める会合の参加者のほとんどが、今の経済の状況が続けば年内に追加の利上げを行うことが適切だと考えている」と述べた。

9月21日のFOMCでは賛成7人、反対3人で金融政策の現状維持が決定された。市場では利上げがあるとすれば9月の会合より12月の会合でとの見方が強かったことで、想定通りとの見方もできるかもしれない。しかし、仮に年内利上げを模索しているのであれば、タイミングは12月より9月のほうがやりやすいのではないかと個人的にはみていた。

21日の会見でイエレン議長は今回の利上げの見送りについて、雇用最大化と2%の物価目標という使命の達成に向けて「さらなる証拠を待つことを選択した」ためとした。かなり慎重な姿勢を見せていたものの、「利上げの条件は整ってきた」との表現にはかわりなく、なぜ利上げを見送ったのかが具体的にはわからない。経済にはもう少し改善の余地があると指摘してしまうと今後発表される経済指標がよほど回復を見せない限り、年内利上げはむしろ厳しくなるのではなかろうか。

21日のFOMCで反対票を投じたひとり、カンザスシティー連銀のジョージ総裁は28日、FRBが後になって急激な利上げをしなくてすむためにも、今緩やかに利上げすることが望ましいとの認識を示した。

28日のイエレン議長も「経済の過熱を容認すれば、金融当局が望むよりも速いペースで利上げせざるを得なくなる可能性がある」とも発言し、ジョージ総裁と同様の認識であることがわかる。

それではなぜ9月21日のFOMCでは利上げに踏み込めなかったのか。イエレン議長、フッシャー副議長、ダドリー・ニューヨーク連銀総裁などが利上げに向けた地均し的な発言もFOMCの前にあっただけに疑問である。ただし、それでも市場の利上げに向けた織り込み度合いがあまり上がらなかったことも事実である。ブラックアウト期間直前に、ブレイナード理事から利上げに向けた慎重発言も出ていた。

FRBがみているのは経済指標ということになってはいるが、市場の利上げ織り込み度合いとともに、影響力が強まっているとされるブレイナード理事などの反対派が抑えられるのか、そのあたりもキーになるかもしれない。11月と12月のFOMCは米大統領選挙を挟む。イエレン議長は否定しているが、政治の情勢が少なからず影響するであろうことも確かではなかろうか。その意味でもブレイナード理事の存在なども意識しておく必要があるのかもしれない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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