Yahoo!ニュース

バングラデシュ中央銀行からの過去最大規模の不正送金事件

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

広報誌「にちぎん」47号に、黒田日銀総裁と小説家の宮部みゆき氏の対談記事が掲載され、その内容が日銀のサイトにもアップされている。このなかで黒田総裁が、ニューヨーク連銀にあったバングラデシュの中央銀行の預金が不正に送金された事件について語っていた。

この事件が起きたのは今年2月。バングラデシュ銀行(中央銀行)が米ニューヨーク連邦準備銀行に持つ口座から、9億5100万ドルの不正送金が試みられた。送金の大半は阻止されたものの、8100万ドルはフィリピンの口座への送金されてしまい、そこから様々な銀行に送金され、雲散霧消してしまった事件である。銀行単一の被害金額としては過去最大とされるが、日本ではあまり報じられることはなかった。

結果からみるとバングラデシュの中央銀行のお金が盗まれてしまったわけであるが、それがニューヨーク連銀にあった口座というところに注目する必要がある。ニューヨーク連銀は米国の中央銀行のひとつの支店のようなものではない。むしろ世界の中央銀行のなかでの基幹を成すような銀行となっている。たとえば世界の国々の保有する金について、そのかなりの部分が、このニューヨーク連銀に預けられているとされる。これは日本も例外ではない。

もちろんニューヨーク連銀には日銀の口座もあるし、日銀にはニューヨーク連銀の口座もある。今回の事件では、バングラデシュの中央銀行のシステム経由で、国際銀行間通信協会(SWIFT)と呼ばれるシステムに侵入されて、ニューヨーク連銀に送金指示が出されてしまった。

国際銀行間通信協会(SWIFT)とはベルギーのブリュッセルに本部を置き、多数の金融機関が所有する協同組合という形態を取っているもので、世界最大のネットワークを運営している組織である。

ニューヨーク連銀は送金を実行する前に、正式なフォーマットではなかったことから送金指示を拒否していたそうであるが、その後ハッカーはさらに連銀に送金を指示し、その内容が適切な送金依頼のフォーマットになっており、一部実行されてしまった。

まるで映画のような事件が今年実際に起きていた。黒田総裁は日銀については、これまで日本ではこのような事件は起きておらず、日銀ネットには外部から侵入されたことがないと対談で述べていた。日銀ネットは新日銀ネットという新システムに移行したことでさらに強固になっている。

日銀ネットは日本の金融システムという重要なインフラを支えているシステムであり、このような不正なアクセスに対して厳重に警戒することが重要となる。しかし、絶対はない。今回はある意味世界の金融インフラの中核を成すニューヨーク連銀も絡んでいただけに、警戒は怠れない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

牛さん熊さんの本日の債券

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月20回程度(不定期)

「牛さん熊さんの本日の債券」では毎営業日の朝と引け後に、当日の債券市場を中心とした金融市場の動きを牛さんと熊さんの会話形式にてお伝えします。昼には金融に絡んだコラムも配信します。国債を中心とした債券のこと、日銀の動きなど、市場関係者のみならず、個人投資家の方、金融に関心ある一般の方からも、さらっと読めてしっかりわかるとの評判をいただいております。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

久保田博幸の最近の記事