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日銀の異次元緩和の敗北とその後始末

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

11月1日の日銀金融政策決定会合は予想通りの現状維持となった。予想通りというのは、すでに黒田総裁が国会などで事前に今回の会合での変更なしを示唆していたことで、その通りになったということである。

今回は決定会合終了のタイミングで日銀のサイトにアクセスが集中することもなかった。日銀は9月の会合後のアクセス集中を踏まえてサーバーを増強するとしているが、まだ増強はされていない。つまりそれだけ株式市場や外為市場を含め、金融市場の関心が低かったということにもなる。

これはある意味、日銀の戦術が功を奏した格好となる。日銀は黒田総裁となってからサプライズ緩和を繰り返してきた。まったく自慢にならないが、黒田総裁となってからは、私も事前予想を悉く外してしまった。2013年4月の量的・質的緩和も総裁の就任直後なので無理があると思ったが、補佐役がしっかり準備をしていた。2014年10月の量的・質的緩和の拡大も、このタイミングで来るかなと疑問であったが、後で振り返ると絶妙なタイミングであった(物価を上げるためという意味でなく他の要因で)。今年のマイナス金利政策についても、ないと見ていたが、総裁自ら否定していたものを決定するという離れ業を行った。

市場はこのようなサプライズに慣らされ、緩和期待が常に発生するなど、市場は金融決定会合の度に神経質となってしまった。これを反省してか、日銀は事前に市場に織り込ませ、サプライズ政策は取らない姿勢にあらためてきた。今回の会合からそれが奏功した格好となった。

サプライズなき結果とはなったが、その意味するところは、サプライズを含めたこれまでの異次元緩和政策が修正されつつあるということでもある。結論から言えば、異次元緩和によって物価に影響を与えて、それを引き上げることができなかったという事実がそこにある。

1日の黒田総裁の会見では、なぜ物価が上がらなかったのかとの説明に対して、デフレマインドがこびりついた状態では簡単にインフレ期待が出ないことや、原油価格の下落、中国など新興国経済の減速、消費増税による消費マインドの後退等を指摘していた。しかし、これは言い訳にしか過ぎない。

2013年4月の量的・質的緩和政策決定のタイミングで、消費者物価指数はマイナスから1年かけてプラス1.5%に上昇した。これを緩和の効果とするのは無理がある。そもそも金融緩和が効果を発揮するまでにタイムラグがあると日銀も以前から指摘していたはずである。しかも、2014年4月の消費増税のタイミングから物価が前年比で低下したのは、消費増税だけの影響ではない。消費増税がなければ物価は上がっていたとの指摘があるが、むしろなぜ短期間の間に物価が上がったのかとの要因を分析したほうが良い。日銀の金融緩和以外の影響が大きかったからこそ、物価の上げ下げがあったと見る方が素直ではなかろうか。

しかしすでに日銀は異次元緩和によって国債を400兆円も保有し、巨額の買入はまだまだ続いている。いまさらこれを止めるわけにも簡単にはいかないようである。これにより債券市場は機能停止状態に陥ってしまった。

それでも日銀はあらためて現状を見据え、これ以上の深入りを避けるとともに、異常ともいえる国債買入の規模縮小を図るべきではなかろうか。日銀の異次元緩和は結果として物価を上げられなかった以上は、敗北したと言っても過言ではない。次はこの後始末を行うことを考える必要があるのではなかろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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