Yahoo!ニュース

ECBは資産買入額を減らして延長、これはテーパリングに向けた布石なのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

12月8日にECBの金融政策を決定する政策理事会が開かれた。市場の注目はどちらかといえば、12月13、14日に開かれるFOMCに向けられているものの、ECBの動向にも注意が必要となる。今回、ECBは何月間800億ユーロの資産買入を2017年3月まで続けるとした資産買い入れプログラムの期間を延長し2017年末まで延長し、毎月の債券購入額は来年4月以降、600億ユーロに減らすと発表した。さらに必要な範囲で中銀預金金利を下回る利回り水準の国債も買い入れることも発表された。

これまでの会合では買い入れ国債の不足についても時間をかけて討議されており、国債が不足した場合にどう対処すべきかといったことについても話し合われていた。すぐに買入れる国債が枯渇するわけではないが、大規模な買入を継続している限り、いずれその買入に限界がやってくることも確かである。そもそもその買入が本当に必要なものなのか、さらにはそれでどのような効果があるのかといった疑問もある。

これについては日銀も検証を行っており、その結果として9月に長短金利操作付き量的・質的金融緩和を決定した。これは国債の買い入れについて減額を含めての調整の余地を残したものである。

表だっての指摘はないものの、この日欧の異常な金融緩和策については、その買い入れる量の限界だけでなく効果そのものも疑問視されている。ただし、為替市場などへの影響を考慮すると効果がないようなので止めますとも言えない。このためECBとしても資産買い入れプログラムの期間を延長した格好となった。

しかし、米国ではトランプ氏の登場もあって経済への回復期待とともに物価の上昇への期待も強まっている。また原油価格も底を打ったような格好となり、これも物価には上昇要因となる。欧州でも一時あったデフレ懸念がやや後退しつつある。

イタリアの政治情勢への不透明感やイタリアやドイツの銀行に対する不安、さらには欧州でのポピュリズムや極右の台頭への懸念等もあり、ECBとしてもなかなか異常な緩和策から簡単に出口を模索できる状況でもないようにみえる。それでも金融市場は極度の金融緩和依存症からは少しずつではあるが回復しつつある。

日銀は前を向いた格好ながら歩みを止めた格好となった。ECBは今回、時間稼ぎの政策に出た。今後の景気や物価の予想次第では、今後の資産買入の調整もありうる(今回、あくまで増額の方向での修正の可能性も示唆された)。つまり日銀のように増加の可能性を強調しながらも、いずれはテーパリングの可能性を探ることも予想される。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

牛さん熊さんの本日の債券

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月20回程度(不定期)

「牛さん熊さんの本日の債券」では毎営業日の朝と引け後に、当日の債券市場を中心とした金融市場の動きを牛さんと熊さんの会話形式にてお伝えします。昼には金融に絡んだコラムも配信します。国債を中心とした債券のこと、日銀の動きなど、市場関係者のみならず、個人投資家の方、金融に関心ある一般の方からも、さらっと読めてしっかりわかるとの評判をいただいております。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

久保田博幸の最近の記事