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FRBの来年の利上げ予想と気になるトランプ政権との対応

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

12月14日のFOMCでは全会一致で、政策金利の年0.25~0.50%から0.50~0.75%への引き上げを決定した。利上げは市場が予想した通りであったが、FOMCメンバー17人の利上げに関する見通しは2017年に3回と前回9月の2回から増えた。市場でも来年は2回程度の利上げかとの予想が多かったことから、これは予想外となった。

イエレン議長は会見で、利上げに踏み切った理由として、「景気の現状に自信があり、今後も拡大を続け、景気は底堅いと確信していることを反映したものだ」と指摘した。

トランプ氏の経済政策が経済に与える影響に関しては「経済政策がどのように変わるのか、かなり不透明だ」と述べており、当然ながらトランプ氏の経済政策を織り込んでの今回の利上げというわけではない。

ただし、市場ではトランプラリーもあって株価指数が最高値を更新するなどしており、FRBにとっては利上げしやすい環境であったことも確かではなかろうか。

来年の利上げを果たして年3回もできるのかどうか。この3回という数字はあくまで、各委員の見通しから導き出した平均値のようなものであって、イエレン議長が3回の利上げを想定しているというわけではない点にも注意が必要となる。

それでも2017年はファンダメンタルズに大きな変化がなければ、少なくとも1回以上の利上げを行ってくる可能性はある。問題はこのFRBの姿勢にトランプ政権はどのような反応を示すかともいえる。

もちろんFRBは政府から独立しており、直接干渉を受けるわけではないというものの、ホワイトハウスや議会の意向を完全に無視することもできない。イエレン議長は会見で、「FRBのスタッフがトランプ氏の移行チームと接触している」とも指摘している。

トランプ氏はすでにイエレン議長の再任の可能性は否定しており、イエレン議長も「4年の任期をまっとうするつもりだ」とコメントはしているが、再任にいてはその可能性は薄くトランプ氏の意向が反映された人事となるとみられる。また空席となっているFRB理事についても息の掛かった人物を任命してくると予想される。

財務長官には元ゴールドマン・サックスの幹部のスティーブン・ムニューチン氏が指名された。ゴールドマン・サックス社長であったゲーリー・コーン氏は国家経済会議(NEC)委員長、また商務長官には著名な投資家で資産家でもあるウィルバー・ロス氏が指名された。

ウォール街出身者であれば、FRBとの関係はそれほどギクシャクしたものとはならないのではないかと見られる。またいわゆる富裕層に属する人達であり、経済物価動向に即したある程度の金利や株価の上昇は容認してくるのではなかろうか。ただし、米長期金利の急激な上昇は避けたいとみられることで、年1回か2回程度であればとの条件付きとなるかもしれない。

そして注意すべきは国務長官に石油大手エクソンモービルの最高経営責任者(CEO)のレックス・ティラーソン氏が指名されたことである。政治上はロシアとの関係性がかなり意識されている。それも懸念材料ではあるものの、金融市場では原油価格の動向が材料視されているだけに、石油業界出身の大物の発言が意識される可能性もある。ただし、ティラーソン氏も立場上は原油価格が下がるよりも、上がることを望んでいるのではなかろうか。

トランプ政権の顔ぶれははっきりしてきたものの、いまだにどのような経済政策が具体的に打ち出されるのかは不透明である。反オバマ色も強いとされることから、その政策が直接株式市場にも影響を与え、外交政策が為替市場に影響を与えることも予想される。そもそもどの程度のドル高を容認するのかといったあたりも見えていない。ただし、現在の米国の株価や金利の動き、さらにはそれに即したドル高であれば容認してくるように思われる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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