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免震化工事を実施中の日本銀行本店本館の豆知識

久保田博幸金融アナリスト
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

国の重要文化財に指定されている日本銀行本店本館は1896年2月に竣工した。日銀の開業当初の店舗は永代橋のたもとにあったそうであるが、手狭なうえ都心からやや遠かったこともあり、開業の翌年に店舗の移転が決定されたそうである。

日銀の設立に際して、創設者でもある松方正義はフランス蔵相レオン・セーからモデルとしては比較的設立が新しいベルギー国民銀行が良いのではないかといった助言を得ていた。このため、ベルギー国民銀行がモデルにされたが、建物そのものもベルギー国民銀行を参考にしたとされている。ちなみに、本館建物を上空からみると円の形に見えるが、当時の「円」は「圓」を使っていたことで偶然である。

日本近代建築界の先駆者であり、東京駅も手掛けた建築家の辰野金吾が設計し、建設事務主任となっている。監督は安田財閥の祖である安田善治郎である。さらに建設事務主任となったのが、あの高橋是清であった。

高橋是清は、森有礼の友人で農商務省次官の前田正名が持ち込んだペルーの銀山開発の話に乗って、農商務省を辞して鉱山経営のためにペルーに赴くものの、騙されて無一文になってしまった。さすがに責任を感じていた前田は高橋に第三代日銀総裁の川田小一郎を紹介し、高橋は日銀に入行することとなる。まずは丁稚奉公から仕上げていただきたいとの高橋の意向もあって、建設事務主任となったのである。ちなみに、辰野金吾は唐津の洋学校での高橋是清の教え子でもあった。

日銀本店工事では高橋是清の力が存分に生かされ、大幅に遅れていた工事はほぼ予定通りに進捗した。この実績が高く評価され、高橋は入行の翌年には全国二番目の支店となった日銀西部支店の初代支店長となり、横浜正金銀行本店支配人となっている。その後、日銀総裁となり大蔵大臣、さらには首相にもなっている。

日銀本館の建設にあたり、1891年に発生した濃尾地震の教訓から、高橋是清の指示で建物上部を軽量化し耐震性を高めた。このため、1923年の関東大震災でも建物そのものへの被害は限定的だったようである。しかし、火災により創業以来の貴重な資料とともに、2階の廊下の両側にあった総裁の肖像画もすべて焼失した(現在展示している肖像画はその後再製されたもの)。

日銀本店本館の建物は1974年に国の重要文化財に指定された。

関東大震災にも耐えた本館であるが、その後、復旧工事や改修工事も行っている。しかし、東日本大震災を契機に首都直下型地震等による被害想定が切り上げられたことを踏まえ、更なる耐震安全性の確保を図るため、2016年10月から免震化工事が行われている。

日銀本館の建物は、鉄筋や鉄骨を使うことなく、外壁の石と内側の煉瓦をともに積み上げて出来ており、この建物が分厚く強固なコンクリートのまな板の上に載っている。今回の免震化工事では、その板の下を掘り下げ、そこにできたスペースに免震装置を設置するという異例の方法をとっている。工事の終了は2019年の夏頃を予定している。(以上、日銀サイトや拙著の原稿などから一部引用)

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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