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透明性を高めることでスムーズな国債買入減額を可能にさせた日銀

久保田博幸金融アナリスト
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

日銀は2月末に公表した「当面の長期国債等の買入れの運営について」から、国債買入の日程を示した。市場の注目度の高い1年超5年以下の中期ゾーン(1年超3年以下、3年超5年以下)と5年超10年以下の長期ゾーン、そして10年超の超長期ゾーン(10年超25年以下、25年超)の3つのゾーンの買入オファー日を事前に公表することとした。

これまでは国債買入についてはそれぞれのゾーンの回数だけを示していた。このため、いつどのゾーンの買入がオファーされるのかは、市場参加者が過去のオファーの例などを参考に予想するほかなかった。日銀の金融政策決定会合の日と利付国債入札日は入らないとか、同じゾーンを2日続けてオファーはないといったことが暗黙の了解とされ、それを除いた日でゾーン毎の日程を予想していたのである。

昨年12月末の「当面の長期国債等の買入れの運営について」で予想回数に幅を持たせたあたりから、市場参加者は何かしら日銀の意図があるのではないかと疑心暗鬼になった。中期ゾーンが6回程度から5~7回程度に、長期ゾーンが6回程度から5~7回程度に、超長期ゾーンが5回程度から4~6回程度とされたのである。「程度」という言葉があるため、特に大きな変更ではないとの見方もあったが、これはやはり目的があったことが後でわかる。

それがわかったのが1月25日の日銀の国債買入であった。この日の市場参加者の予想は超長期ゾーンに加えて中期ゾーンも含まれていた。もちろん市場の事前予想通りに日銀が買入を行うわけではなく、多少ずれることはままある。しかし、ここにカレンダーの問題があった。

中期ゾーンは1月はすでに4回の買入が実施されていた。12月には6回実施されており、1月も当然6回あると市場参加者は読んでいた。26日以降のカレンダーをみると27日に中期ゾーンを含めた買入が予想されているが、もう一日が見つからない状態となってしまったのである。

26日には流動性供給入札、30日には2年国債入札、30~31日は日銀の金融政策決定会合が予定されていたことであと1日が見つからない。結局、1月の中期ゾーンは1回分スキップされたのである。市場参加者は12月末に公表された「当面の長期国債等の買入れの運営について」の意図が読めず、いきなり中期ゾーンを1回分スキップ、つまり減額されたことで、ややパニック状態に陥った。2月2日には長期金利上昇抑制のため、指し値オペが実施されている。

日銀にとり、来年度の国債発行額の減額等もあって国債買入の減額は避けられない。しかし、それを表立って示すことも、テーパリングと認識される懸念があってできない。そこで「当面の長期国債等の買入れの運営について」でそれとなく示唆したことでスキップという手段を取ったとみられる。しかし、市場参加者は減額の必要性は認めていても、闇討ちのような手段にむしろ驚いてしまったのである。

このため日銀は国債買入の日程を公表するとともに、市場参加者には長短金利操作の目標があるため長期ゾーンはさておき、中期ゾーンや超長期ゾーンの減額の可能性も1回あたりのオファー金額の調整などで日銀は意識させようとした。

少なくとも今後はスキップという手段を講じることはなく、一回当たりの多少の減額は需給を読みながらとの解釈も可能なことで、市場はこの形式での減額については特に動揺することはなかった。これにより日銀は4月以降の国債発行額も意識しながらの微調整を行うことが可能となったのである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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