Yahoo!ニュース

検索が命を脅かす時代 - ネットに広がるウソ医学から患者を守る医療情報メディア

朽木誠一郎記者・編集者
4/21時点での「糖尿病 治療」の検索結果。厚生労働省サイトは自然検索で二番目。

インターネットの情報には間違いがあります。それを当然と思える人は、インターネット検索をする際に、信頼できる情報を選別されているでしょう。しかし一部には情報の真偽に疎い人もいます。あるいは疎いのではなくてワラをも掴む、神にでもすがりたい人たちを相手にしたビジネスというものがインターネットには存在して、今その最たるものが医療なのではないかと思います。

例えば「糖尿病 治療」というキーワードで検索をしてみましょう。4/21時点でのGoogleの検索結果を見ると、一番上に掲載されているのはリスティングと言われる広告です。検索エンジンも非営利のサービスではないので、広告があるのはある意味で仕方のないことです。ここにはGoogle経由の広告として、糖尿病の治療について扱った書籍や、クリニックの宣伝が並んでいます。

注目したいのが二番目、自然検索のトップは一般のウェブサイトです。見た所こちらは専門家により提供された情報ではなく、クリックしていくとサプリメントの販売ページに誘導されます。これが厚生労働省のウェブサイトよりも上位に来てしまっているのが現状です(4/28現在、順位が逆転)。これは個人の検索履歴に影響されないプライベートモードでの検証結果です。

自然検索のトップとそれ以下では、クリック率に30〜40%の違いがありますので、圧倒的に非専門家による医療情報が検索ユーザーの目に触れやすいと言えるでしょう。ちなみに4位にWikipediaがありましたが、それでもWikipediaです。論文などの出典にはできない情報ソースですが、Wikipediaを論文などの出典にできないということも、そもそも知らない人がいらっしゃることかと思います。

ここで、「糖尿病 治療」のキーワードで検索をするのはどのような人か、考えてみます。おそらくは健康に不安を抱えた人が、糖尿病の治療についての情報を事前に収集しているのだと思います。「良薬は口に苦し」とはよく言ったもので、適切な治療というのはある程度、患者の負担を伴うものです。それがサプリを飲むだけで治療になるかのように宣伝されたら、一定数の患者がそちらに流れてしまいます。

多少ライティングの心得があれば、ウェブサイトで読者に対して巧みに心理的な誘導をかけて、商品を購買させたりサービスに登録させたりすることはそう難しいことではないのです。上記のようなウェブサイトは、商品の購買やサービスの登録をさせることで、サイト運営者に報酬が発生するアフィリエイトのサイトかと思われます。一般に、健康や美容関連の商材というのは報酬が高額です。

リスティングやアフィリエイトはウェブマーケティングの手法で、それ自体は決して悪いことではありません。検索ユーザーの役に立つ情報をインターネットに掲載して、検索ユーザーから対価を得るのは本来はWin-Winの関係です。しかし、情報の非対称性が明らかな医療というテーマで、ましてや非専門家が営利のみを目的として情報提供を行うのは、メディアの倫理にもとる行為なのではないでしょうか。

「糖尿病 治療」の例について言えば、もし読者がサプリメントなどを服用することで治療になると勘違いしてしまうと、適切な治療を受けようとせず、おおげさでなく命に関わることがあります。インターネットで生活は便利になりましたが、同時に検索が命を脅かす時代になったとも言えるのです。

ネットにおける情報操作は昔から問題視されてきましたが、ある程度以上メディアについて知見があれば、検索順位を上げることで人の目に触れる機会を増やすことも可能です。しかし、医療でそれをすると不幸になる人が現れます。また、これを放置しておくことで、インターネットのメディアというもの自体が信用されなくなることも危ぶまれるところです。

このような現状には、医療の専門家により運営されるメディアというのがひとつの解決策になるでしょう。そこで今回は、医療従事者による医療メディア『Medical Note』様(以下、敬称略)に、インターネットに広がる誤った医学情報から患者を守る取り組みについてお伺いしました。

画像

Medical Noteには現在約50名の現役医師が顔と名前を明らかにして記事を提供しており、運営も多くが医師、および医学生という構成です。日本全国の病院と提携して、正確な情報を継続的に提供する運営体制になっています。さらに、エンジニアやメディアコンサルタントが連携して、専門家の目から見ても適切なコンテンツが検索結果において適切に上位表示されるような仕組みを整備しています。

「コンテンツの質、量ともに充実させて、患者や一般の方に本当に役立つ、有益なサイトを構築したい」と語るのはMedical Note代表であり、医師、多数の医学書籍の出版経験もある井上祥氏。海外と比較しても、日本のインターネットの医療情報の提供にはかなり遅れがあるのだそうです。医学的な根拠と専門家の経験に基づいた医療情報が提供される社会を実現するのがビジョンとのことでした。

課題は検索順位という不確かなものについて、どのようにGoogleなど検索エンジンの信頼性を獲得していくか、さらには検索重視の時代が終わったときに、ユーザーにどのようなアプローチをしていくのかという点にあると思いました。これからのMedical Noteの成長に注目したいです。

メディアは社会を変えるのか、それは情報の恩恵にあずかる全ての人に影響する重大なテーマです。これまで情報の正確性についての議論がしにくかった専門的な分野において、専門家自身がメディアという手法を身に付け、広く世の中に発信していくというのは、紛れもなく社会を変革するチャンスではないでしょうか。

記者・編集者

朝日新聞記者、同withnews副編集長。ネットと医療、ヘルスケア、子育て関連のニュースを発信します。群馬大学医学部医学科卒。近著『医療記者の40kgダイエット』発売中。雑誌『Mac Fan』で「医療とApple」連載中。

朽木誠一郎の最近の記事