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電車内のあの「テレビ画面みたいな広告」の値段はいくら?

朽木誠一郎記者・編集者
株式会社ジェイアール東日本企画の『トレインチャンネル』媒体資料より。

高円寺から五反田までの通勤途中、よく満員電車に遭遇する。中央線の上りと、山手線の新宿―渋谷間を経由するためだ。混雑した電車に乗り込んでも、当然、座席には辿り着けない。

電車の扉付近でぎゅうぎゅうに押し潰されながら、何となく視線を上げたときに目に入るのが、電車内のあの「テレビ画面みたいな広告」。紙のポスターではなく映像が画面に表示されるシステムは、デジタルサイネージと呼ばれる。

就職してからあまりテレビを観なくなった。雑誌もほとんど読まない。しかし、物理的に拘束される満員電車では、何気なくデジタルサイネージの広告に見入ってしまう。

山手線の2014年の平均通過人員は1日100万人以上(品川―田端・新宿経由)。趣味趣向によらず、たくさんの老若男女の目に触れる広告は、テレビの低視聴率や出版不況が取り沙汰されるなかでは、稀有な存在だ。一体どのくらいの値段で出稿されているのだろうか。

まず、JR東日本グループの広告代理店である株式会社ジェイアール東日本企画の資料によれば、デジタルサイネージ広告『トレインチャンネル』の料金メニューの一部(税別)は以下のようになっている。

  • 山手線/中央線快速/京浜東北線・根岸線/京葉線/埼京線/横浜線/南武線/常磐線各駅停車セット(スポットCM・1週間・15秒間):450万円
  • 山手線/中央線快速/京浜東北線・根岸線/京葉線/埼京線/横浜線/南武線/常磐線各駅停車セット(長期スポット30CM・26週間・30秒間):1億3700万円
  • 中央線快速/京浜東北線・根岸線/京葉線/埼京線/横浜線/南武線/常磐線各駅停車セット(スポットCM・1週間・15秒間):250万円
  • 山手線(長期スポット15CMハーフ・13週間・15秒間):3800万円

こちらの広告料金には、実際の映像制作の費用は含まれない。広告枠のみの料金だ。

特筆すべきは山手線だろうか。セットに山手線が含まれるかどうかで、料金がかなり変動している。また、プランによっては億単位の広告料金がかかることも、あらためて数字を見るとびっくりする。

興味深いのが「指数連動CM」という広告メニュー。これは乾燥指数や花粉指数といった情報の後に、保湿効果のある商品や花粉症薬の広告が放送される、という仕組みになっている。

株式会社ジェイアール東日本企画の媒体資料より。
株式会社ジェイアール東日本企画の媒体資料より。

こちらの料金メニューは以下だ。

  • 山手線/中央線快速/京浜東北線・根岸線/京葉線/埼京線/横浜線/南武線/常磐線各駅停車セット(コンテンツ連動商品・1週間・コンテンツ15秒間+CM15秒間):980万円
  • 中央線快速/京浜東北線・根岸線/京葉線/埼京線/横浜線/南武線/常磐線各駅停車セット(コンテンツ連動商品・1週間・コンテンツ15秒間+CM15秒間):580万円

指数コンテンツは非常によくできていて、たしかに購買行動に結び付きやすいのではないだろうか(コンテンツが広告の一部なのだとすれば、ニュースの体裁であることの是非は問われるかもしれない)。

これがテレビや雑誌になるとどうだろう。一枠あたりの単純な値段の比較に本来は意味がないが、この記事では広告「枠」に注目するために、参考まで記載しておく。

テレビの15秒1本あたりのCM料金目安(税別)の一部は、『広告ダイレクト(テレビCM)』によると以下のようになっている。

  • 日本テレビ/フジテレビ/TBS/テレビ朝日(関東地方):40万円 ~ 75万円
  • テレビ東京:20万円〜30万円
  • 札幌テレビ放送(北海道):4万5000円 ~ 6万円
  • 東京MXテレビ:4万円

テレビCMにはタイムとスポットの2種類があり、こちらは番組に関係なく放送されるスポットCMの料金だ。また、CM制作費はやはり別で、タレント起用などにより、数千万円〜数億円になることもある。

雑誌も同様に、4c1p(4色カラー1ページ)の1回掲載あたりの定価(税別)の一部は、『広告ダイレクト(雑誌広告)』によると以下のようになっている。

  • AERA(朝日新聞出版):130万円
  • 週刊文春(文藝春秋):185万円
  • BRUTUS(マガジンハウス):150万円
  • ViVi(講談社):190万円

上記はファッション誌などでよくあるタイアップ広告ではないので、雑誌も原稿制作費は別。

ここまでをまとめると、電車内広告の「枠」自体はその他の広告と比較して値段が高いことがわかる。ちなみに、ウェブのメディアでは、サイトに表示されるバナー広告は、ブランドのあるメディアでもざっくり数十万円の価格感が相場だろう。

しかし、ウェブにおけるマーケティングの利点は効果測定性だ。バナー広告をクリックしたユーザーの何%がその場で商品を購入したか、さらには、しばらく日を置いてその商品を購入した場合でも、それをパソコンやスマホの情報から計測することができる。

一方、電車内広告など、その場で商品を購入できるわけではない広告では、広告接触率・広告到達率などの指標で効果測定がなされる。しかしこの数字は主に、モニターに“広告を見たかどうか聞く”という方法で計測されるため、ウェブほどの根拠はないという現実があるそうだ。

広告代理店社員に匿名を条件に話を聞いてみると、「明確な指標がないので、プランナーが企画にGOサインをもらうため、ある程度、都合のいい効果試算をすることもある」とのこと。

しかし、山手線の平均通過人員ひとつをとっても、アプローチできる人の数はウェブ広告より多い場合があることは明らかだ。前出の広告代理店社員も、「改めて、電車や駅メディア(駅構内や壁面など駅の施設に掲出する広告の総称)の価値を見直す流れが来ている」と言う。

2016年3月には、新宿駅をサンリオの人気キャラクター・ポムポムプリンのぬいぐるみがジャックするイベント『だきつきプリン』が話題になった。実際に目で見て、広告によっては手で触れることができるのも、このような屋外広告の特徴だ。

参考:新宿駅に大きなふわもこポムポムプリン「だきつきプリン」が出現 通勤通学途中に抱きついて癒されよう!

「これまでは、あくまで接触する人の数が屋外広告の価値だったのですが、今やほぼ全員がスマホを持ち歩いている、全員メディア時代です。写真をシェアさせる≒バズらせることで、広告費以上の認知効果を生み出せるんです」(前出の広告代理店社員)

生活をするなかでたくさんの人が利用する場所を、ひとつの媒体と捉えることで、ウェブやスマホが普及した現代においては、広告がこれまで以上の効果を上げるということがありそうだ。

そんなことに思いを巡らせていれば、満員電車で過ごす時間も多少は気が紛れるかもしれない。

記者・編集者

朝日新聞記者、同withnews副編集長。ネットと医療、ヘルスケア、子育て関連のニュースを発信します。群馬大学医学部医学科卒。近著『医療記者の40kgダイエット』発売中。雑誌『Mac Fan』で「医療とApple」連載中。

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