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「ニート」という言葉が外れました。

工藤啓認定特定非営利活動法人育て上げネット 理事長

先週の金曜日(2014年11月14日)に開催された第13回「選択する未来」委員会。この委員会は、今後半世紀先を見据え、持続的な成長・発展のための課題とその克服に向けた対応策について検討を進めるため、経済財政諮問会議は設置したものだ。

「選択する未来」委員会では、「成長・発展」「人の活躍」「地域の未来」の3つのワーキンググループを設置し、各テーマごとに議論が展開された。

僕はそのなかの「人の活躍」ワーキンググループに参加させていただいた。既にこのワーキンググループは先週の「選択する未来」委員会に報告書を提出しており、その役割を終えている。

最終日にそれぞれがこのワーキンググループについての振り返りや感想を述べた後、自然発生的に拍手が生まれた。これまで審議会や委員会に出させていただいたことはあるが、初めての経験だった。開始当初から西村副大臣、小泉政務官が忌憚のない意見、自由な提案を出す場であることを一貫して協調されていたことが、闊達に言葉が飛び交う雰囲気を作ったのかもしれない。

最終報告書が親委員会に提出されたという連絡をもらい、改めて、眺めてみた。各委員がさまざまな意見や提案を投げかけ、議論がなされるが、最終的な内容の判断、意思決定は座長に一任される。

報告書は3つの柱、5つの提言でまとめられている。そのなかでも、「提言4:若者、女性、高齢者の活躍 」の「若者」のパートへの提言が、僕に課された主たる部分だったと思います。とは言え、複数の委員からそれぞれプレゼンテーションがあり、外部有識者の発表があり、それを基に喧々諤々議論の上で、報告書はまとめられていく。

この手の報告書は残念ながら、あまり耳目を集めることがないかもしれないが、政府や行政が施策や政策を考えるときの参考文献になったり、引用として活用されるかなり大切なものだと考えている。若者支援関係は省庁や部署が明確になっていないため、直接的な影響を受ける部署や人は少ないかもしれないが、今後、国や都道府県、市区町村などで若者支援関係の政策などに僅かながらも影響があるかもしれないため、文章ごとに意見を述べてみたい。

職業生活の入口にある若者については、その活躍の可能性を広げていく観点

から、就労に向けた多様な機会が用意されることが望ましい。

出典:内閣府

就労という言葉の定義が曖昧ではあるが、そこに至るための多様な機会とは、いわゆる就職活動に留まらない多様な機会を準備するということになる。職業生活の入口といっても、入り口の扉をほぼ開いているところから、おぼろげながらも入口が目の先に見えているひと、心身の状態によっては入口を探せるようになるまでの部分を包摂している。この多様な機会の「多様性」においては、就職支援という画一的ではない機会を探求する必要があり、多様な機会の一端を担うNPOなども積極的に発信をしていってほしい。

複層的な切れ目ないチャレンジの機会を確保する観点

出典:内閣府

僕の発言の際には「連続的」と表現したが、より包括的な語彙として「複層的」が採用された。ここで言う切れ目のない、というのは、例えば、労働市場への(再)参入から、「定型業務」「熟練業務」「高付加価値業務」の狭間が政策や制度で細切れにならず、機会が確保されるべきだと言うものだ。

特に、無

業者や非正規雇用労働者に対しては、個人の所属などに関わらず多様な職業訓

練を受けることができる機会の確保により、技術・スキルの修得・更新を容易

にすることや、身に付けた能力が適切に評価され、職業につながるよう橋渡し

の支援を行うこと

出典:内閣府

労働市場の外側にいる若者、内側にいても不安定な状態の若者が特にフォーカスされているが、当初はここが「ニート」となっていた。しかし、さまざまな議論のなかで「ニート」を「無業者」に代替することとなった。この一言にかなりこだわったのだが、「ニートの定義」はかなり曖昧であり、このまま「ニート」という言葉が置かれることによって、求職活動を行っている若者(若年失業者)が対象範囲から抜けてしまうリスクが生じてくる。

そこで、「無業者」という言葉に代替することにより、求職活動の有無にかかわらず、仕事に就いていない若者がほぼすべて対象内となる。もちろん、個々の事情や状況によってニーズは異なるが、何かの政策を実行する際、その仕様書に対象者が「ニート」と記載されており、求職活動をしている若者は対象外です(対象となってません)といった意味のない基準が課されるリスクを取り除くことができる。

単に就職のみを目標

とするのではなく、人が職に定着し、継続的に力を発揮することを目標とする

べきである。その際、若者の就職・定着に着目した包括的・継続的な調査を実

施、検証し、エビデンスに基づいた政策を行っていくべきである。

出典:内閣府

就職のみが目標となれば、それを実行する側はどうしてもその目標数値に活動が規定される。自主財源によりサービスを提供するのであれば自由だ。しかし、特に公費を活用して事業を行う場合、委託元の仕様書や成果指標から自由になることはほとんどない。しかし、定着や継続性がKGIやKPIになれば別だ。安易なマッチングも少なくなれば、時間をかけた支援も、定着や継続を担保できるのであれば正当性を持っていく。僕自身は、就職者数/率のKPIが変われば、いま現場で制約を受けている大半のジレンマは解決すると考えている。その意味で、ここに定着と継続という言葉が入った意味は大きいと考える。

そして最後に、調査の実施と検証、エビデンスに基づいた政策が入った。調査がまったくないわけではないが、若者問題はかなり最近顕在化したもので、大規模または継続的な調査は少なく、心ある研究者も予算が獲得できないなど、さまざまな理由で調査や検証の質・量が不足している。それに付随して、エビデンスに基づこうとも、そのエビデンスが圧倒的に少ない。

エビデンスがすべてではない。経験や勘がものをいうシーンも現場では多々ある。しかし、それでは経験値、経験年数を持たない支援者は、経験値と経験年数を持たなければ活躍しようがなくなってしまう。特に、個々人に対して効率・効果的な支援を行えれば、時間やコスト負担を減らすことができるが、それ以上に、これから若者支援の分野が広がっていくのであれば、人材育成が重要となってくる。これまでの人材育成研修の多くは、各地で経験値と経験年数を持つ支援者が、自らの経験を話すことで終了するものが少なくない。

もちろん、わかりやすくフレームに落としたり、調査・検証・エビデンスベースドに落とし込みながら、経験を重ねて話ができるひともたくさん知っている。それでも統一的な規格や標準的なモデル(とそうである根拠)が提示されないため、大多数がそれなりに納得する育成研修モデルが育まれていないのが実情である。

今回のワーキンググループは、非常に多岐にわたるテーマを、長い時間をかけて議論してきたものであり、最後に拍手が自然と生まれたように、大きな気づきや学びになった。基本的にこのような審議会や委員会、検討会は、予め申請をすれば聴講できるものも少なくない。しかし、日時や場所が決まっているため、今後はネットを活用して、いつでも誰でもが聴講できるように変えていくべきではないかと考えている。

認定特定非営利活動法人育て上げネット 理事長

1977年、東京都生まれ。成城大学中退後、渡米。Bellevue Community Colleage卒業。「すべての若者が社会的所属を獲得し、働くと働き続けるを実現できる社会」を目指し、2004年NPO法人育て上げネット設立、現在に至る。内閣府、厚労省、文科省など委員歴任。著書に『NPOで働く』(東洋経済新報社)、『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『若年無業者白書-その実態と社会経済構造分析』(バリューブックス)『無業社会-働くことができない若者たちの未来』(朝日新書)など。

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