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仕事で使えるパソコンスキルがないということ。

工藤啓認定特定非営利活動法人育て上げネット 理事長

認定NPO法人育て上げネットでは、日本マイクロソフト社と北海道から沖縄までの43団体と共に、延べ20,000人の無業の若者に基本的なITスキルを獲得する「若者UPプロジェクト」を展開してきました。

何を持って「基本的」とするのかは、個々のITスキル次第ではありますが、以下のスキル習得機会を提供しています。

1. タイピング:「クラウディア・窓辺 タイピングゲーム

2. Word/Excel/Power Point 基礎

3. Word/Excel/Power Point 応用

4. Access

5. WebMatrix/HTML

上記のITスキルがあるから仕事で使えるとは言えないかもしれません。仕事で使うITスキルはもっと高度であり、このレベルでは仕事に支障がない程度ということも推察されます。

過去の受講生約3,000名のデータを見てみると、「仕事でパソコンを使えるようになるため」に受講された若者が84.1%と大変高くなっています。こちらの質問項目が限られていることもありますが、仕事に就くこと、職場で困らないために受講されている方がほぼ全員です。

若者UPプロジェクト「参加目的」
若者UPプロジェクト「参加目的」

基本的なITスキルについて、通常はどこで学ぶのでしょうか。

やや情報が古いため、いまはもっと広がっていると思いますが、2008年に出されたベネッセ教育総合研究所の「子どものICT利用実態調査」では、早い段階でパソコンの使い方を学んでいるが、授業での使用頻度は低くなっているようです。

「あなたは学校で、パソコンをどれくらい使いますか」という設問に対し、「授業中に使う」場合の利用頻度を示している。このうち「ほとんど使わない」と、あまり利用頻度が高くない「月に1日くらい」を選択した割合をあわせると、小学生で64.4%、中学生で68.8%、高校生で55.9%となり、いずれの学校段階でも大きな割合を占めている。一方で、「週に3日以上」使っていると回答した割合は、小学生で0.5%、中学生で0.3%、高校生で1.0%と少ない。子どもが学校で頻繁にパソコンを使っているという印象はほとんどないようだ。

出典:ベネッセ教育総合研究所「子どものICT利用実態調査」

これくらいの授業時間では、なかなか仕事で支障がないと言い切れるレベルにまでは到達しないと思います。むしろ、自分(または自宅)にPCを使ってスキルを獲得していくのかもしれません。

パソコン保有状況
パソコン保有状況

実際、受講者のなかで自分のパソコンを保有しているのは約半数でした。家族との共有が36.4%となっていますので、必ずしもパソコンが使えない環境であるとは言えませんが、その一方で、12.6%が自宅でパソコンが使えない状態でした。

仕事で活用できるパソコンスキルがないがために無業であるとは言い切れませんが、これから仕事を探していく際、「パソコンすらできない」ことは、求職活動に小さくない影響を与えます。実際、若者UPプロジェクト導入機関において、講習受講者と講習非受講者の就労率差異は12.8ポイントという推計もあります。

若者 UP 運営団体内の【IT 講習受講者の就労率】(29.7%)から【IT 講習の非受講者の就労率】(16.9%)を差し引き、受講・非受講における就労率の差異(29.7%‐16.9%)は 12.8%と推計された。

出典:株式会社 公共経営・社会戦略研究所「若者UPプロジェクト」SROIによる第三者評価報告書P26

働く自信をつけたい
働く自信をつけたい

基本的なパソコンスキルを獲得すれば就職できるわけではありませんが、少なくとも若者支援機関に来所する若者のニーズである「働く自信をつけたい」(若年無業者白書より)に対して、働く自信の獲得に寄与できることはわかりました。

求職者と企業のマッチングの必要性が叫ばれるなか、マッチング以前の無業の若者(特に若年無業者非求職型)のニーズを調査し、何が望まれているのかを分析、それに対する支援策を提供していかなければなりません。当プロジェクトは、働く自信を獲得したい無業の若者の一部に対して、自信獲得可能性のひとつとしてITスキル形成の機会を付与したに過ぎません。それでも多くの若者が受講し、その後の進路を決めて行ったことには、ひとりの支援者として喜びを感じ、また、まだまだやれることはたくさんあると感じています。

これまでの若者UPプロジェクトを総括する上で、「若者と仕事」(←協働執筆者の西田亮介氏のサイト)という政策提言書を作成しました。もしよろしければご一読ください。

認定特定非営利活動法人育て上げネット 理事長

1977年、東京都生まれ。成城大学中退後、渡米。Bellevue Community Colleage卒業。「すべての若者が社会的所属を獲得し、働くと働き続けるを実現できる社会」を目指し、2004年NPO法人育て上げネット設立、現在に至る。内閣府、厚労省、文科省など委員歴任。著書に『NPOで働く』(東洋経済新報社)、『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『若年無業者白書-その実態と社会経済構造分析』(バリューブックス)『無業社会-働くことができない若者たちの未来』(朝日新書)など。

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