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選挙権を持つことになるかもしれない18歳へ。

工藤啓認定特定非営利活動法人育て上げネット 理事長

来年の夏、自宅に投票用紙が届くかもしれない。薄々気がついているひともいれば、ある日突然「投票せよ」と言われて困惑するひともいるかもしれません。新聞などでは来年夏に18歳、19歳を迎えるひとたちのために、いろいろな議論がされています。

今の国会で法案が成立すると、来年夏の参議院選挙からになるようです。この時までに誕生日を迎えた今の高校2年生は早速、投票権を持ちます。きのうまで小学生だった新中学1年生も、6年後には投票できるようになります

出典:信濃毎日新聞

出席した議員からは、「選挙権を与えただけでは、高校生は投票しないのではないか」という声や、「教育の政治的中立性をどう担保するのか」といった意見が上がりました。

出典:テレ朝news

世界の大勢は既に18歳。さらに16歳へ移行する流れにある。20、30代の低投票率を背景に、「投票に行くのか」と、政治や社会への無関心、問題意識の希薄さを懸念する声も多い。だが若者意識とかけ離れ、声が届かない政治の仕組みも変えていく必要がある。国の未来を切り開くのは若者であるからだ。

出典:福井新聞

先日、ある高校の校長先生と話をする機会がありました。もしかすると来年の夏、教室内に投票権を持つ生徒と持たない生徒が生まれる。学校として、教員として、選挙制度や投票についてどのように伝えればいいのか悩んでいるそうです。選挙の制度や意味はまだしも、初めての投票で生徒から「どこの誰に投票したらいいですか?」と聞かれてしまったとき、どのように答えたらいいのかわからない。「先生は誰に入れるの?」と質問されても答えづらいのです。

これは先生という立場だからではなく、保護者も、現在投票権を持っているほとんどのひとが同じだと思います。例えば、「子育てに関しては○○党はいいけど、△△党は触れていないね」とか、「あの候補者は奨学金について触れているけれど、この候補者は話していないね」という話はしても、互いに「じゃあ、どこ(誰)に入れたの?」とは聞きません。そして聞かれてもたいていは答えないと思います。そういう質問をするひとなんだなと気分を害するひともいるでしょう。

僕が20歳になり、投票権を持った時に一番驚いたのは、中学卒業以来まったく連絡を取っていなかった同級生(友人とも言えない)から突然電話がかかってきて、投票するひとを決めたのかと聞かれました。そしてまだ決めていないと言うと、○○さんはいいよ、とやんわり投票を促されました。いまでは自分の投票先は自分で決めるものだと言い切れますが、初めてのことでその電話にどう答えていいのかすらわからず困惑しました。

特に18歳、19歳での投票が可能になると、高校生であれば教室内に投票できるひとと、できないひとが混在します。まだ投票権がないひとからすれば、投票権を持った友達に気軽に「選挙いったの?」「誰に入れたの?」と聞いてみたくなりますし、逆に聞かれても応えに困るかもしれません。

そのような状況に備える意味でも、ひとつだけおススメできるのは、クラスメートや同級生のような横のつながりでもなく、保護者や先生のような縦のつながりでもない、普段あまり会ったり、話したりするわけではないけれども、信頼を持って相談ができるひとを持っておくというものです。来夏、18歳、19歳が投票できるようになるかはかなり早い時期にわかります。初めての選挙がスタートしてしまうと、たくさんの情報が飛び交いますし、みんなが選挙のことを意識するようになります。初めての選挙で迷っているひとに対して、政治や投票についての話をしづらいと感じるひとも増えるかもしれません。

それよりも前、選挙の「せ」の字が出る前くらいから、「もし私が来年の夏に投票できるようになったらどうしたらいいかな」と相談をしてみて、自分が納得のいくアドバイスをくれるひとを探しておいてはどうでしょうか。テレビや新聞を読んだり、候補者が訴える政策などを知って考えたらいいよと言われるかもしれませんが、「このサイトを読んだら参考になるよ」とか「参考になる情報が得られるよ」と具体的に教えてくれるひとがいいかもしれません。特に偏っているわけではなく、とても中立的な情報を提供してくれるひと。特定の候補者を推して来たり、悪く言ったりせず、あくまでも投票先を決めるのは”あなた”であることを尊重してくれるひとが一人でも、二人でも周囲にいたらきっと選挙や投票に前向きになれると思います。

18歳、19歳が投票できるようになっての初めての選挙に遭遇したとしたら、それはとても苦しいけれど幸せなことでもあります。どれくらいの18歳、19歳が投票したのか。何に共感して投票を決めるのか。何に怒って投票をしなかったのか。多くの20歳以上が注目をするからです。

認定特定非営利活動法人育て上げネット 理事長

1977年、東京都生まれ。成城大学中退後、渡米。Bellevue Community Colleage卒業。「すべての若者が社会的所属を獲得し、働くと働き続けるを実現できる社会」を目指し、2004年NPO法人育て上げネット設立、現在に至る。内閣府、厚労省、文科省など委員歴任。著書に『NPOで働く』(東洋経済新報社)、『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『若年無業者白書-その実態と社会経済構造分析』(バリューブックス)『無業社会-働くことができない若者たちの未来』(朝日新書)など。

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