ファレルの「HAPPY」福島版を作ってわかった、地域コンテンツの新たな可能性

ファレル・ウィリアムスの大ヒット曲「HAPPY」にのせて様々な人たちが踊る動画が今年に入ってから世界的なムーブメントになっている。これは言わば「恋するフォーチュンクッキー」の世界版で、すでに147カ国、約1800本ものご当地版HAPPY動画がYouTubeにアップされ、いまもその数は増え続けている。

「HAPPY」は「恋チュン」のように決まった振り付けはないため、練習の必要もなく、それぞれが自由きままに踊っているところを撮影し、つないでいくというきわめてシンプルなものだ。

日本では4月末に公開された原宿版が大きな話題を呼び、阿波踊りの徳島版など次々にご当地版が作られ始めている。

昨年東京から故郷福島に拠点を移した私は、原宿版に刺激され、地元・福島版の制作を思い立った。被災地ということで、いまだに道行く人がみなマスクをしている暗い街というイメージを持たれがちだけれど、実際、ほとんどの人は普通にハッピーに暮らしている。むしろ以前より割り切っていて、腰を据えていて、地域愛が強い人が多いのだ。HAPPYの動画なら、その空気をそのまま伝えることができると思ったのだ。

賛同する仲間とともにゴールデンウィーク明けから制作に入った。福島市長やタレントのなすびさん、JR福島駅長など地元のキーマンを含む約200人の出演者が集まり、福島市内を中心に2週間かけて少しずつ撮影を行った。4分間の動画で、一人の出演時間はそれぞれ数秒程度だが、撮影した素材は合わせて314ギガバイトという膨大なものになった。

今週月曜、ようやく完成し、YouTubeに公開となった。

公開してすぐ、国内メディアに取り上げられ、同日英語圏のインフルエンサーに紹介されるなど、予想を超える反響をいただいている。

現在のところ国内からのアクセスが75%だが、海外ユーザーの割合がどんどん増え続けており、視聴地域はアメリカ、ヨーロッパ、アジア、中東など121カ国に上る。コメント欄も日本語より英語がメインで、フランス語やタイ語などその他の言語が混じるという実にグローバルな展開になっている。

これまで100本以上YouTube動画を作り、YouTube活用本『YouTubeをビジネスに使う本』も書いた私だが、すべて日本語のものばかりで、非言語のグローバルコンテンツを作ったのはこれが初めて。国内向けとは全く違う反響を見て、改めてYouTubeがグローバルプラットフォームであること、そしてその中で「世界的ブームに乗ること」のパワーを実感している。

まだ公開3日目、結論を出すには早すぎるが、この「HAPPY」動画は、国内ばかりでなく世界に向けて自然な形で地域の魅力をアピールするのに最適なコンテンツだと思う。

恋チュンと違って場所や踊り手の説明テロップは入らないが、踊り手の背景を選ぶことによってご当地色を出すことができる。HAPPY福島では、福島駅構内や浄土平、高湯温泉、野地温泉といった福島を代表する観光地をバックに踊ったり、福島の酒蔵の方々にお酒を持って踊ってもらったり、「赤べこ」や「土湯こけし」といった土産品も登場させてみた。 自由に、映像のみで発信するため、アイディアひとつで、その土地の魅力をテンポよく発信できるのがHAPPY動画の最大の魅力だ。

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観光宣伝動画ではないのでこの動画を見てすぐにツアーの申し込みが入るようなものではないが、

「すごく雰囲気いい動画!日本はいいところが多いですから、こういう紹介の仕方があるんだと気付きました。遊びに行きたくなる!!」

「すばらしい!笑顔を見てハッピーになれました」

など、国内外からいただいたたくさんのコメントを見る限りは、福島のプラスイメージを持っていただくのに一役買えたのではないかと思う。

少なくとも「福島はなんとなく怖いから旅行に行くのは避けよう」という人が一人でも減ったとしたら、制作スタッフも出演者も手弁当でこの動画を作った意義は十分にある。

外からの反響だけでなく、地元でもおもしろいことが起きている。

FacebookやTwitterを見ると、参加した方だけでなく、「私の知り合いが出てます!」などの言葉とともに周りの人までがシェアをしてくれていて、まるで祭りのお神輿のように、このHAPPY動画の成り行きを楽しみながら見ているのだ。

世界にリーチするグローバルコンテンツとして作ったものだれど、実はローカル(地域)のみんなが楽しみ、結束力を強めることのできるコンテンツでもあるのだ。来週にも市長を含む動画出演者の打ち上げを行い、動画を流し、未公開映像などみんなで楽しむイベントを企画している。

HAPPYの動画は、さらっと簡単に作ることもできる。極端に言えば、数人集めて同じ場所で踊ってもらえば1日あればできてしまう。でも、出演者を多数そろえてロケーションも考えて本格的に作るとなると、撮影も編集も時間が必要になる。福島版はみんなの力を結集して相当なエネルギーを注いで作った。どこまでやるかは作り手次第だが、やはり、ほかのコンテンツ同様、努力のぶんは返ってくるものだと思う。

そして、もしかしてこの動画は制作をしている側が、いちばんハッピーなのかもしれないと思った。それほど楽しく、あっという間の2週間だった。

このHAPPYのブームの寿命はどれくらいあるか、正直わからない。もしかしたら夏頃には冷めてしまい、オワコンと言われてしまうのかもしれない。でも、「ハッピーを感じているなら手をたたこう」というファレル・ウィリアムスのシンプルなメッセージにのせた「普通の人たち」の笑顔は、流行廃りなく普遍的なものだと信じている。

今回のHAPPY制作を通じていちばん強く感じたのは、地域の魅力を醸し出すものは、名所旧跡などの「場所」や名産品などの「モノ」ではなく、そこに暮らす「人」なのだということだ。自由に踊るという身体表現は、その人の持ち味、人生、背景、幸福感を感じさせ、満面の笑顔に思わず惹き込まれる。一見大人しそうな普通の人でも、音楽にのって自己表現をしている姿は実に多様で、そのたび感動してしまう。

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「人」そして「笑顔」。

それがこのHAPPYというコンテンツの本質なのである。

HAPPY福島版を見た方が、さっそく地元でも作りたい、ということで質問や相談をいただいている。自分の地域の、そして自分自身のHAPPYを世界に発信するこのムーブメントがもっともっと広がればいいなと思っている。