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裁判情報入手の日米ギャップについて

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

先日書いた島野製作所の対アップル訴訟のように興味深い訴訟があった時にはその具体的内容を知りたいと思うのは当然のことです。そもそも、裁判を原則的に公開で行なうことは憲法にも定められています。

しかし、日本における裁判間連の情報収集は、裁判所まで出向いて実際に傍聴するか資料を閲覧しない限り、当事者の発表情報かメディア経由の二次情報かに頼るしかない(しかも、大手メディアであっても知財間連においてはちょっと怪しいことが多い)ので困ったものです。重要な裁判については判決文が裁判所のサイトで公開されますが、タイムラグがありますし、すべての裁判の判決文が公開されるわけではありません。また、判決が出る前の進行中の裁判については、傍聴者が記事でも書いてくれない限り、ネットで情報収集する手段はほとんどありません(さらに言うと、書面の提出だけで終わってしまう公判もあるので傍聴者にも内容が全然わからないこともあります)。

そもそも、日本では、今回のように当事者がプレスリリースでも出さない限り、どこがどこを訴えているかを知るのは困難です。

また、裁判所まで出向いて資料を閲覧するためには、事件番号を知っていなければなりません。原告、被告名で事件番号の検索はできるのですが、検索端末は自分で操作できず担当者に依頼して検索してもらう必要があるそうです。そうなると、日本法人と本社のどっちが原告・被告なのか等の問題もありますので、網羅的に調べるのは大変です。さらに、資料のコピーは許可されていませんので、メモを取るしかありません。

これに対して米国ではPACER(Public Access to Court Electronic Records)というウェブサイトがあり、ネットで全米の裁判所のほぼすべての資料が網羅的に検索可能になっています(ただし、1ページあたり10セントの料金がかかります、1四半期当たり15ドル以下は請求されないので、ちょっと調べるくらいなら無料でできます)。事前のユーザー登録(とクレカ登録)が必要です。ログイン情報は郵便で送られてきますので登録までにはちょっと時間がかかります。

裁判記録、特に、知財関係の裁判記録は社会的にきわめて重要なのでより多くの国民にアクセスできるような仕組み作りが必要だと思いますが、日本はまだ全然できてないと思います。離婚や相続に関する裁判であればプライバシーの問題もあるのである程度公開が制限されてもしょうがないですが、知財関係の裁判は、結果的に特許が無効になったりすれば結果的に当事者以外にも影響が及ぶので公益的な観点から情報公開を特に促進すべきでしょう。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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