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新五輪エンブレムをネット審査する場合の商標法上の考慮点について

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
(写真:伊藤真吾/アフロスポーツ)

新五輪エンブレム問題、前回書いたように個人的には招致エンブレム再利用推しですが、現実には再公募になるのでしょう。再公募するならば、前回よりもオープンな形でというのは組織委も表明していますし、国民の声でもあると思います。

オープンな公募が意味するところは、ひとつには(前回とは異なり)応募資格をより広くするということでしょう。ただ、あまり広くしてしまうと審査に時間がかかってしまうのでバランスが難しいところです。

もうひとつの「オープン」の意味としては、応募作(少なくとも最終選考に残った応募作)をネット等で公開し、広く投票を募るということが考えられます。この方式の問題点では、組織票が可能になってしまうこと、(特にネット投票を行なった場合に)おもしろ半分でネタ的な作品に投票が集中してしまう可能性があることでしょう。投票と審査員による審査を組み合わせる必要があるかと思います。

もうひとつの重要な問題として商標権の問題があります。五輪エンブレムとして正式採用されるためには全商品・全役務で商標登録できることが前提です(これがあったので前回も原案を手直しといったような変な手順になってしまいました)。

しかし、オープンな公募をということで応募作を事前に公開してしまうと、よからぬ輩が先に勝手に商標登録出願してしまうリスクが生じます。商標は先願主義なので、先に同じ(または類似の)出願があると、後の出願は登録できません。勝手にやられた出願を拒絶させる、あるいは、登録を無効にする手段はありますが、時間がかかりますし100%確実ではありません。また、日本だけでなく、海外(特に中国)にも気をつける必要があります。

この問題を防ぐためには応募作を公開前に出願して、先に出願日を押さえておくことが必要です。全商品・全役務で出願すると出願料金は1件当たり40万円弱です。たとえば、最終選考まで非公開で審査しておいて、最終選考案の3点を商標登録出願しておいてから一般公開というのはまだ何とかなりますが、応募作が仮に1000点とするとその全部を最初から公開し、事前に全部商標登録出願しておくというのは費用の点で非現実的と思われます。

こういう観点からも既に全商品・全役務での商標登録が完了している招致エンブレムの採用が好ましいと思います(しつこい)。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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