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アップルのiPhone用純正バッテリーケースがかっこ悪いのは特許権回避のためなのか

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
出典:apple.com

先日販売開始された、iPhone 6とiPhone 6sのアップル"純正"のモバイルバッテリーケース(参照記事)のデザインがアップルらしからぬということで話題になっています。工業デザインについては人により意見の相違があるでしょうが、ぽっこりと出っ張ったバッテリー部分は"後付け感"ぷんぷんでインテグレートされたデザインを尊ぶアップルのセンスとは相容れないもののように思えます。

出典:apple.com
出典:apple.com

米国のテック系メディアThe Vergeの記事” Is Apple's Smart Battery Case so goofy because it was designed around Mophie's patents?”では、このデザインは他社の(特にモバイルバッテリー最大手のMophie社)の特許権回避のためではないかと推測しています。

この記事で挙げられているMophie社の特許は、US9172070US8971039の2件です。いずれも、モバイルバッテリーケースを2つの部分に分割して、スマホ本体を挟むようにして装着する点がポイントになっている特許です(デザイン特許(意匠)ではなく、日本でいうところの特許です)。

US9172070
US9172070

たとえば、US9172070のクレーム1は以下のようになっています。

1. A protective battery case for use with a mobile electronic device, the protective battery case comprising:

a lower casing portion comprising:

a battery;

a back wall configured to extend across at least a portion of a back side of a mobile electronic device;

a lower right side wall configured to extend along at least a portion of a lower right side of the mobile electronic device;

a lower left side wall configured to extend along at least a portion of a lower left side of the mobile electronic device;

a bottom wall configured to extend along at least a portion of a bottom of the mobile electronic device;

an open top side to facilitate insertion of the mobile electronic device into the lower casing portion;

an internal interface extending upward from the bottom wall, the internal interface configured to engage a corresponding interface on the mobile electronic device, wherein the battery is coupled to the internal interface to enable the provision of electrical power to the mobile electronic device through the internal interface, and wherein the internal interface is configured to permit transfer of data to or from the mobile electronic device;

an external interface configured to receive electrical power to recharge the battery, wherein the external interface is electrically coupled to the internal interface to enable the mobile electronic device to communicate with an external device via the internal interface and the external interface while the mobile electronic device is mounted in the protective battery case;

a user input element configured to enable a user to start and stop charging from the battery to the mobile electronic device; and

an upper casing portion configured to removably couple to the lower casing portion to form a casing that is configured to at least partially enclose the mobile electronic device, wherein the upper casing portion comprises:

a top wall configured to extend along at least a portion of a top of the mobile electronic device;

an upper right side wall configured to extend along at least a portion of an upper right side of the mobile electronic device; and

an upper left side wall configured to extend along at least a portion of an upper left side of the mobile electronic device;

wherein a front opening of the protective battery case is configured such that a display of the mobile electronic device is visible through the front opening.

一見、限定が多く範囲が狭いように思えますが、ほぼ必須の限定が多いので権利範囲は比較的広いように思えます。たとえば、一番最後の限定は、「このバッテリー内蔵保護ケースの前面開口部は携帯電子機器のディスプレイが見えるように設けられている」となっていますが、この限定を回避する(スマホのディスプレイが見えないように覆ってしまう)とケースとして機能しなくなってしまいます。US8971039の方もほぼ同じです。

ということで、この両特許を回避しようと思うと、ケースを分割式にするのはあきらめて伸縮性のある素材をスマホ本体に嵌め込む構造にするのが一番簡単です(ただし、他にもクレバーな回避方法はいくらでもあると思います)。ただ、仮にこういう構造にせざるを得ないとしても、Smart Battery Caseのようにバッテリーがぽっこり出っ張ったデザインにする必要性はありません。たとえば、BESTEK社の同様の製品(下写真)を見てももう少しスマートな処理をしています。Mophie社をはじめとした他社の様々な意匠権(デザイン特許)を回避するための苦肉の策なのかもしれません(他社であれば「訴えられたらやめればいい」で突っ切れるレベルでもアップルとしてはコンプライアンス的にできないことはあるでしょう)。

画像

バッテリー部分をでっぱらせたことで、持ちやすくしているという見方もありますし、現物を見ると実は思ってたよりかっこいいということはあるのかもしれませんが、アップル純正品としてこのデザインはどうなのか感はぬぐえません。最大の禁句である「もしジョブズが..」もつい口に出してしまいたくなります。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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