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3D Touch特許訴訟:今回はアップルに分が悪いのか?

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
(写真:ロイター/アフロ)

ちょっと前に、バーネットX社とアップルの特許侵害訴訟について書いたばかり(過去記事1過去記事2過去記事3)ですが、またGizmodで「今回は分が悪いか? アップルが3D Touch特許侵害で訴えられています」という記事がありました。こちらは訴えられたというだけでまだ何の結論も出ていません。

ちなみに、アップルは2014年に米国で最も多くの特許侵害訴訟の被告となった企業であるそうです(参照記事)。

さて、今回、アップルを訴えたのはイマージョンという企業で、問題となった特許は3D Touchというよりはハプティクス(振動によるUI)関連です(3D Touchには振動によるフィードバック機能がありますのでもちろん関係してはいるのですが)。Wikipediaによりますと、イマージョン社は自社での技術開発は行なっていますが、特許訴訟に積極的でメディアでは「パテントトロール」と呼ばれているようです。

同社は2002年にゲーム機コントローラーの振動機能関連特許(今回のとは別の特許)でマイクロソフトとソニーを訴え、最終的にライセンス契約に至っています(特にソニーとはもめにもめた上で最終的にはライセンス契約を勝ち取っています(参照Wikipediaエントリー))。バーネットX社のケースとよく似ています(つまり、根拠なしに恫喝訴訟をするタイプのパテントトロールではないということです)。

イマージョン社のプレスリリースによると問題の特許は、8,619,051: "Haptic Feedback System with Stored Effects"(保存された効果による触覚フィードバック)、8,773,356: "Method and Apparatus for Providing Tactile Sensations"(触感を提供する方法及び装置)、そして、8,659,571: "Interactivity Model for Shared Feedback on Mobile Devices"(モバイルデバイスの共用フィードバックのための対話型モデル)です。対象製品は、iPhone6とApple Watchです。

1番目の特許の中身を簡単に見てみましょう。

優先日(実効出願日)は2007年2月20日です。クレーム1の内容は以下のようになっています。

1. A haptic feedback system comprising:

a processor;

a memory coupled to the processor, wherein the memory stores a plurality of pre-defined haptic effects;

an actuator drive circuit coupled to the processor; and

an actuator coupled to the actuator drive circuit;

wherein the processor is adapted to output a first stored haptic effect of the pre-defined haptic effects in response to a haptic effect request;

wherein the haptic effect request is a control signal generated in response to a first application that identifies the first stored haptic effect to be played;

wherein the output causes the first stored haptic effect to be played;

wherein the entire haptic output in response to the haptic effect request consists of the first stored haptic effect;

wherein an application program interface (API) receives the haptic effect request from the first application and retrieves the requested first stored haptic effect, wherein the first application is registered with the API and a second application is also registered with the API and has access to the first stored haptic effect.

かいつまんで言うと、OS側に振動によるフィードバックの効果(長さ、周波数等)のプリセットを保存しておき、API経由で複数のアプリケーションから共用できるというだけのことです。私見ですが、後付け思考バイアスを排除して考えても(特に出願日が2007年と比較的新しいことを考えると)進歩性は微妙に思えます(他のクレームも同様です)。

実際、イマージョン社は日本でも同系列の出願(特願2013-206875)をしており、そちらは全クレームに対して進歩性欠如による拒絶査定が出て、今まさに不服審判で争う状況になっています。日本の特許庁の判断と米国特許庁の判断が常に一致するとは限りませんが、この特許の有効性については鉄板とは言えなさそうです。

残り2件の特許についてはまた後日。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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