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日本でもハッシュタグを商標登録できるのか

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

ハッシュタグも知的財産--商標登録する海外企業」という記事を読みました。

ハッシュタグを「競合他社に使われては困る」ということで、商標登録する企業が海外で増えている。

たとえば、コカコーラは2015年、#CokeCanPics、#SmileWithACokeを米国で商標登録した。競合ペプシも、#SayItWithPepsiを欧州で商標登録しており、主にInstagramで使われている。

米国特許商標庁では、2013年に商標審査便覧にハッシュタグ登録についてのセクションを新たに設けたが、その後、600件以上のハッシュタグ商標登録が出願されている。

ということだそうです。実際、企業のソーシャルネットでの広告活動にはハッシュタグが重要な役割を果たすので商標登録の対象になるのは納得できます。

上記の商標審査便覧のハッシュタグ登録についてのセクションとは、TMEP(Trademark Manual of Examining Procedure)の1202.18 Hashtag Marksのことでしょう。

商品の単なる記述にすぎない文字列にハッシュ文字を付加しても登録されることはない(たとえば、スケートボードを指定商品にして#SKATERを出願しても登録されない)等々の審査基準が書いてありますが、ほぼ自明なものです。

さて、日本ではハッシュタグは商標登録可能なのでしょうか?日本の商標審査基準にはハッシュタグの記載はないですが、ハッシュタグも文字列のひとつに過ぎませんので、文字列として登録要件を満足すれば商標登録可能です(その意味では米国と同じです)。実際、J-PlatPatで先頭に#がある文字商標の登録を検索してみると、何件かそれらしいのが見つかります(米国のように600件以上も出願されているという状況ではありません)。

たとえば、セールスフォースドットコムによる「#DREAMJOB」(5673675号)(指定役務はソーシャルサイト運営等)、P&Gによる「#LIKAEGIRL」(57480878号)、「#女の子らしく(5740879号)」(指定商品は生理用品等)などがあります。米国系企業中心と言えそうです。

なお、商標権とは(日米問わず)商品やサービスの営業標識としての使用に及ぶものであって、その言葉のあらゆる使用に及ぶものではありません。

したがって、個人がツイッター等でつぶやく際にはハッシュタグの商標権は関係ありません。たとえば、企業がキャンペーンのために作成したハッシュタグを使って、一般消費者がその企業の批判ツイートを書く行為(俗に"BASHTAG"と呼ばれる行為)を商標権に基づいて禁止することはできません(名誉毀損等、別の根拠があれば禁止できることもあるでしょうが、商標権とは別の話です)。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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