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アップルの次のイノベーションは紙袋?

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

「新たに公開されたAppleの特許は、なんと新しい紙袋!」という記事を読みました。アップルがBagという名称の特許出願を米国特許庁に行なっていたという話です。出願が公開されたというだけで特許化されたわけではありません。また、意匠(デザイン特許)ではなく、通常の特許です。

特許公開番号は20160264304です(まだGoogle Patentsには転載されていません)。その中身を見てみましょう。

基本的には他人の特許出願(特に審査中のもの)にはコメントしないポリシーですが、この出願は正直スカスカです。クレームの最初のいくつかを訳すとこんな感じです。

クレーム1:少なくとも60%の再生材料を含む白紙で構成される容れ物部を含む小売店用紙袋。

クレーム2:前記白紙は漂白された固いクラフト紙であるクレーム1に記載の紙袋。

クレーム3:前記容れ物部は前記少なくとも60%の再生材料を含む漂白された固いクラフト紙と接着剤のみから構成されるクレーム2に記載の紙袋。

(以下略)

特にやる気がないのがBACKGROUND(背景技術)の項(普通は従来技術の問題点等を書きます)で、以下の段落のみとなっています。

BACKGROUND

Bags are often used for containing items. For example, retail bags may be used to contain items purchased at a retail store.

袋は商品を入れるために良く使用される。たとえば、小売袋は小売店で買った商品を入れるために使用される。

再生紙の割合を増やすと強度が落ちるのでその対策のために何かしたというような斬新な技術的特徴があればまだしも、基本的にやっていることは弱い部分に紙を貼って強化しているくらいです。

なぜ、アップルはこんな特許を出願したのでしょうか?何かの間違いで登録できるかもと思ったのでしょうか?(前も書きましたが、あまりにも当たり前すぎるアイデアだと逆に先行特許文献が見つからなくて登録されてしまうことはないわけではありません)。他社に先に出願されないように防衛的に出願したのでしょうか?特許出願件数のノルマ達成のために無理矢理出願したのでしょうか?

この出願に対するUSPTO(米国特許庁)の審査経過を見ると単一性違反による選択指令が出ています。クレーム群(全部で19クレームあります)に3種類の紙袋が含まれているのでどれか選べ(他は必要なら分割出願せよ)ということです。

日本の特許庁だと「再生紙の割合は設計事項にすぎない、袋の弱い部分を強化する等も技術常識なので進歩性なし」で終わってしまいそうな気がしますが、USPTOの審査官は律儀に審査しているんですね。完全に想像でしかないですが「そっちがノルマ達成のためにくだらない特許出願するのなら、こっちも分割で出願件数を増やしてクレジット稼がせてもらうからな」という意思表明なのかもしれません(ちなみに、USPTOの審査官の評価システムはなんとウェブ上で公開されています。拒絶理由1回出すごとに評価されるシステムです)。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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