アマゾンのダッシュボタンは特許で保護されているのか?

(写真:ロイター/アフロ)

既に米国では展開済みの、ボタンを押すだけで洗剤等の特定の日用品をアマゾンに注文できるダッシュボタンが日本でも展開されました。その都度スマホでオーダーすればいいのでは、定期おトク便でよいのでは、宅配便のお兄さんかわいそう、等々の意見もあるようですが、IoT的なアプリケーション事例としては興味深いものがあります。

このダッシュボタンが特許で保護されているかどうか簡単に調べてみましたが、ダッシュボタンそのものの特許は見つかりませんでした(さくっと調べただけなので見落としているかもしれません)。米国で展開開始されたのが2015年3月なので出願されているとしたら公開されていないとおかしいタイミングです。一方、ボタンを押すだけでオーダーできる仕組みそのものが、有名な「ワンクリック」特許でカバーされているという説もあります。ちょっと検討してみましょう。

「ワンクリック」特許はウェブ・ショップにおいて、ショッピングカートのプロセスをバイパスしてオーダーできる点がポイントの特許です。かつては、「ビジネスモデル特許」として、その妥当性が議論されたと思いますが、よく考えれば「ビジネスモデル特許」でも何でもなく、ソフトウェアの特許(UIの特許)にしかすぎません。妥当性を議論するなら、新規性・進歩性があるのかといった点で議論すべきだったでしょう。

この特許(の関連特許)は日本でも成立しており今年の1月に記事を書いています。

そこで紹介した第4959817号(アイテムを注文するためのクライアント・システムにおける方法及びアイテムの注文を受け付けるサーバ・システムにおける方法)の最初のクレームを見てみましょう。

【請求項1】

アイテムを注文するためのクライアント・システムにおける方法であって、

前記クライアント・システムのクライアント識別子を、前記クライアント・システムのコンピュータによりサーバ・システムから受信すること、

前記クライアント・システムで前記クライアント識別子を永続的にストアすること、

複数のアイテムの各々のアイテムについて、

前記アイテムを特定する情報と、前記特定されたアイテムを注文するのに実行すべきシングル・アクションの指示部分とを、前記クライアント・システムのディスプレイに表示することであって、前記シングル・アクションは、前記特定のアイテムの注文を完成させるために前記クライアント・システムに要求される唯一のアクションであり、前記クライアント・システムに対して前記シングル・アクションの実行に続いて前記注文の確認を要求しないこと、および

前記シングル・アクションが実行されることに応答して、前記特定されたアイテムの注文要求と前記クライアント識別子とを、前記サーバ・システムに送信することであって、前記注文要求は、前記シングル・アクションによって示されたシングル・アクション注文要求であり、前記クライアント識別子は、ユーザのアカウント情報を特定することを備え、

前記サーバ・システムが、前記シングル・アクションによって示されたシングル・アクション注文要求と、前記クライアント識別子に関連付けられた1または複数の以前のシングル・アクション注文要求とを組み合わせ、1つの注文に結合することを特徴とする方法。

重要なポイントとして「ワンクリック特許」だからと言って、上記の主クレーム(一番範囲が広いクレーム)には、どこにも「クリック」とは書いておらず「シングル・アクション」と抽象的に(範囲を広くして)書いている点です。ここを、出願時点(1998年)の実装に引っ張られて迂闊に「マウスでクリックする」なんて書いてしまうと必要以上に範囲が狭くなってしまいます(下手をすると「指でタッチする」場合にすら権利行使できなくなってしまいます)。

とここまで見るとダッシュボタンの「シングル・アクション」にも適用できそうに思えますが、残念ながらこのクレームでは「クライアント・システムのディスプレイに表示する」という構成要件が入っているので、ダッシュボタンには適用できそうもありません。特許出願する時は、将来の様々な形態を想定してできるだけ範囲を広くするようがんばる(上記の「クリック」→「シングル・アクション」の抽象化の件はまさにそれです)のですが、ディスプレイへの表示までバイパスしてオーダーするところまでは思い付かなかったのでしょう。

ちなみに日本でのもうひとつの特許、および、米国の同一特許ファミリーも「表示する」の構成要件が入っているので状況は同様です。

とここまで書いてきて何ですが、仮にダッシュボタンが特許で守られていなかったとしても、この仕組みを真似られる(真似るだけの体力がある、真似てビジネス上の効果が出せる)企業というのは結局アマゾン以外にはないのではないかと思ったりもします。