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マリオコスプレ・カートレンタル業者の言い分を検証する

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
(ペイレスイメージズ/アフロ)

都内でよく見かけるマリオのコスプレをして運転できるカートレンタル業者のひとつ株式会社マリカーを任天堂が訴えた件については既に(エンタメカテゴリーの方に)書きました。この記事ではもう少しだけ法律的に深掘りしてみます。

ネットでは、「てっきり任天堂の公式かと思っていた」「許可なしならダメに決まってるじゃないか」というような声が聞かれますが、実際、訴訟になると実はそう簡単ではなく、さまざまなややこしい論点があり、「ダメに決まってる」とまでは言えなさそうです。

マリカー社側も、ウェブサイトにおいて「私たちは、複数の弁護士・弁理士等の専門家に相談をし、私たちのサービスが、任天堂様に対する不正競争行為及び著作権侵害行為には該当しないと判断した上で、サービスを提供してきました」と言っています(当然ですが、この相談した弁理士の中に私は含まれていません)。

なぜ、マリカー社が不正競争行為及び著作権侵害行為には該当しないと判断したのかを検討してみましょう。訴状を見ているわけではないので、任天堂のニュースリリースをベースに考えていきます。

まずは不正競争防止法です。任天堂のニュースリリースでは、「任天堂が製造販売するレースゲームのシリーズとして広く知られる『マリオカート』の略称である『マリカー』という標章をその会社名等として使用」している点が問題とされています。

これは、不正競争防止法2条1項1号の話でしょう。

他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為

この条文が適用できる要件は、商品等表示の周知性、同一・類似、消費者の混同の3つです。最大の問題は「マリオカート」が周知であることは確実であるものの、その略称である「マリカー」という言い方が果たして消費者の間で周知であるかということです。ここは裁判では揉めるところになりそうです。

なお、マリカー社は、「車両の貸与」等を指定役務として「マリカー」を商標登録(5860284号)しており、これに任天堂が異議申立を請求していたのですが、任天堂の主張は認められず登録維持となっています(要は「マリカー」は周知とまでは言えないと特許庁に判断されたことになります)。登録商標の使用であっても不正競争防止法2条1項1号がオーバーライドして適用されることはあるのですが、ちょっと気になるところです。(注:本記事の最初の版では維持決定が出ていたのを見落としていたのでこの段落書き直しています)。

次に、著作権法です。ここで、最大の論点になるのは、コスプレ衣装が著作物にあたるかどうかです。キャラクターの絵やフィギュアであれば著作物にあたる可能性はきわめて高いですが、コスプレ衣装については少なくともあらゆるタイプが著作物とされることはないでしょう。もし「キャラクターのコスプレ衣装はすべて著作物」ということになると、たとえば、ヨーヨーとセーラー服を売るとスケバン刑事の著作権を侵害することになってしまいます(たとえが古くてすみません)。

おそらく、どこかで線引きがされるものと思いますが、マリオ(およびルイージ)については衣装だけで著作物とされるかはちょっと微妙ではないかと思います。そもそも、大量生産品の著作物性は微妙なケースが多く、裁判において、ファービー人形は著作物ではないとされましたし、お菓子のオマケに付いていた海洋堂制作のフィギュアのうち妖怪のフィギュアは(創作性があるので)著作物だが、動物のフィギュアは(図鑑等の写真と同じなので)著作物ではないとされた、等々、ケースバイケースになることが多いです。

ここから先は、マリカー社が提供しているコスプレ衣装の少なくとも一部は著作物とされたという前提で話を進めます。

この前提ですと、任天堂の許可なくコスプレ衣装を作っだけで翻案権(または複製権)の侵害になってしまいますが、マリカー社はウェブサイトにおいて「公道カートレンタル事業者の中には、任天堂の許可無く勝手に模造された衣装を販売、レンタルしているなどの悪意のある業者もあり、任天堂様と協力してそのような事業者がなくなるように対応していこう協議した矢先のことであり、大変困惑しております」と書いているので、コスプレ衣装は正規品(任天堂の許諾品)を購入して使用していると思われます。

なので、任天堂もそこは突っ込めないので「公道カートをその顧客にレンタルする際に当社のマリオ等の著名なキャラクターのコスチュームを貸与」している点を問題にしているのでしょう。著作権法の貸与権です。貸与権は主にレンタルCDや貸本で問題になってくる権利ですが、その対象はCDや書籍に限定されません(映画については頒布権で処理されますが、実質的には同じです)。貸与権は正規の購入によっても消尽しません(もし消尽するという規定だったら買ったCDで誰でも勝手にCDレンタル業ができてしまうので大問題です)ので、正規品であろうがなかろうが貸与権は効いてきます。

貸与権における問題は、マリカー社はコスプレ衣装の貸与をしているのではなく、レンタルカートに付随するものとしてコスプレ衣装を提供しているという点です。こういう場合にも貸与権は及ぶのでしょうか?中山「著作権法」に出てくる貸与権に関する論点である「居間に絵画を飾った貸別荘をそのまま賃貸に出したら絵画の著作権者の貸与権を侵害するか」という話も関係してきます。裁判で何らかの線引きが行なわれるのだとしたらそれはそれで興味深いものがあります。

また、任天堂は「コスチュームが写った画像や映像を当社の許諾を得ることなく宣伝・営業に利用」している点も問題にしています。コスチュームが著作物という前提であれば、複製権、展示権、上映権、公衆送信権の侵害になる可能性は十分にあるでしょう(もちろん、コスチュームが著作物でないということになれば元も子もない話になります)(ちょっとこれは私の勘違いでコスチュームの著作物性よりも人が着た状態で元著作物の表現の本質的な特徴を体感できるかがポイントになるかと思います、どちらにしろもめそうなところではありますが)。

(追記)書き忘れてましたが「コスチュームが写った画像や映像を当社の許諾を得ることなく宣伝・営業に利用」していることが上記の不正競争防止法2条1項1号的にどうかという点も問題になるかもしれません。その場合には、コスチュームが「商品等表示」にあたるかでもめそうです(店員がマリオのコスチュームを着ているのならばまだ話は単純なのですが)。

ということで、この件は、第一印象とは異なり、任天堂にとっては決して楽勝というわけにはいかないのではないかと思います。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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